「離婚はしないがカネはくれ」婚姻費用で人生台無しになりました

カードローン地獄に陥る人まで…
西牟田 靖 プロフィール

自転車操業でなんとかやってます…

「年下の妻と結婚したのは40をすぎてからのことでした。子どもに囲まれて暮らすのを夢見ていたので、奮発して都心に近い街に4LDKのマンションを購入して結婚生活がスタート。

定年までにローンを払い終えようと、銀行から4800万円を借り入れてローンを組みました。普通よりも短い20年ローンを組んだため、結婚前のような豊かな生活とは程遠い、節約を意識しなくてはならない生活になりました」と話すのは40代後半のテレビ局に勤務するCさんだ。

多いときには年収総額が1500万円超という高額所得者であるCさんだが、年間約270万円のローンの返済に加え、管理費や駐車場代が年60万。子ども2人の保育園代年96万、学資保険代年48万などを支払うと決して生活に余裕はなかったという。

「夜の人付き合いも大事にされるテレビ業界。仕事中心になりがちで、家族の不満が溜り夫婦関係がギクシャクするというのはよくあるようです。

ウチでは、二男を出産した後、妻の精神状態は急に不安定になりました。いつも機嫌が悪く、私が遅く帰宅するたびに激怒され、平手打ちの連続なんてこともあり、とても手に負える状態ではありませんでした」

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一方、彼は小遣い欲しさで始めた株の運用が成功、夫婦関係の修復のために、株取引で儲かったお金で妻に洋服を買ってあげたり、妻の実家を二世帯住宅として建て替える計画を立てたりする。

「株の含み益が数百万円になったとき、『あなたの実家を2世帯住宅に建て替え、ご両親の助けを得ながらゆとりのある環境で子育てをしよう』と提案したところ、妻は涙を浮かべて喜んでいました」

ところがその後、Cさんの夢がもろくも崩れ去っていく。

「調子が良かった銘柄が急落して半値になったんです。家を建て替えるためにはここで損をする訳にはいかない。リスクを承知でキャッシング(カードローン)して、株を買い増したところ、株価はさらに下がっていき、最終的には1000万円の借金を抱える身となってしまいました」

Cさんは妻に、育児休暇明けで仕事に復帰したら月3万円で良いので家計に入れて欲しいと懇願する。

「疑心暗鬼となった妻は、子どもを連れて実家に帰ってしまいました。その後、弁護士を通じて、『離婚に応じよ』『月額20万円の婚姻費用を支払え』と通知してきたんです」

借金と突然の別居、婚姻費用の請求、さらには愛する子どもたちに会えなくなるという四重苦に陥った。

Cさんは婚姻費用の額をめぐって調停で争うことになるが、別居時の生活費の額は婚姻費用算定表により自動的に決められてしまう。

「『株で作った借金は家を建て替える目的で行ったものであり、失敗の責任をすべて私が負うのは不公平だ。収入から損失額を差し引くなど考慮して欲しい』と懇願したんですが、一切考慮されることはありませんでした」

こうしてCさんは毎月20万円の婚姻費用を妻に支払うことが決まった。

「婚姻費用を払うために、含み損をかかえた株をすべて処分しましたが、約1000万円の借金が残りました。婚姻費用を払うと住宅ローンとカードローンが返せなくなりました。

ローン支払日が来ると、他社から借りて返済するなど自転車操業でその場その場を凌ぎました。何のために生きているのか分からなくなり、辛くて仕方がなくなりました」

 

その後、Cさんは自宅マンションを売却する。カードローンの借金約1000万円をすべて完済することができたが、思い出のこもったマンションと家族を失った。

「子どもの成長のために必要なお金だというのは分かっているんです。でも、毎月20万円払って、子どもたちと会えるのは月にたったの1回1時間だけというのはあんまりです」

婚姻費用という「副作用」

夫の意見ばかりを聞いているので、妻がどう思っているかはここではわからない。しかし6人が6人とも、家族が壊れるということを望んでおらず、子どもたちに愛着を示しているという点が共通していた。

一方で、離婚裁判が長引けば長引くほど、婚姻費用の総額は膨れ上がってしまう。お金のことだけ考えると、親権などの条件が悪くても、早期に離婚した方がいいとも言えるのだ。

「夫が妻の主張に対して、DVはないとか、モラハラではないとか、逆に妻に暴力を振るわれたとか、不貞は働いていないとか、子供の親権を持ちたいとか、裁判所に申し立て、法廷で戦いたいと思っても、1年、2年さらにそれ以上の年月がたてば、婚姻費用の額が慰謝料や財産分与以上の金額に膨れ上がります。

そこに係争費や家のローンや遠方への交通費などが加われば経済的な損失は相当なものです。その場合、夫が自分の言い分を裁判所で主張したいと思っても、経済的負荷に耐えられず降参――ということが起こりえます。

本来自身の主張を尽くして判断を受けるという手続が保障されているはずなのに、事実上この機会が奪われてしまうのです。一方、性別が逆のケースも中にはあります」(古賀礼子弁護士)

通常ならば、夫婦間で別居時の相手の暮らしを支えるためのお金である婚姻費用。これが、より多くのお金を得たいとか、いい条件で離婚したいなどという別の目的で使われることで、意図しない別居、そして経済的に大きな損失を夫に背負わせることになる。

これは、結婚している男なら誰にでも起こりうることだと心得てほしい。中でも子どもがいる父親、さらには高額所得者やサラリーマン、公務員といった取りっぱぐれのない職業の人たちは、そのリスクについて特に肝に銘じておいた方が良いだろう。