2017.07.04
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『ジョジョの奇妙な冒険』は、究極の自己啓発書であるッ!

この大胆な提言を、君は受け入れるか?
杉田 俊介 プロフィール

ジョジョが教えてくれたこと

誤解されるかもしれないが、これは「どんな人の中にも無限の可能性がある」ということではない。

そうした考え方は、むしろ危険であり、無責任ですらある。グローバルな自由主義経済のもとでは、一部の勝ち組の人々(クリエイティヴクラス)だけではなく、社会的な周縁層や貧困層の人々の中にも「自分の中の潜在的な可能性をつねに開発しなければならない」という意識が刷り込まれていく。

それはフリーターや引きこもりの青年が、ミュージシャンや小説家や漫画家を夢見るようなものだ。

「自分の中には才能や能力が隠されている」と信じていれば、現実の苦しさや過酷さを忘れられるからである。しかし、長い目でみれば、「どんな人の中にも無限の可能性がある」という価値観は、当人たちをさらに苦しめることにもなりかねない。

もちろん、『ジョジョ』の世界でもまた、能力や競争の魅力が必ずしも否定されているわけではない。彼らもまた必死に生長し、精神力や能力を高めていこうとしている。それは当たり前のことである。

ジョジョの奇妙な冒険スターダストクルセイダース エジプト編 Vol.3

経済学的にいえば、市場経済の中では、各人が相対的に優位な(比較優位な)能力を発揮することができる仕事を選んで、自らの労働力としての価値を高め、他の人々と社会的に分業し合っていく。

そのことによって、マクロレベルでは、社会全体が――個々人の力の単純な算術的和を超えるような――大きなパフォーマンスを発揮することができるのである。

しかし、『ジョジョ』はそこからさらに一歩先へと、足を踏み出していくかのようだ。私たちの内なる弱さ・狂気・障害こそが、潜在的に、その人のいちばん素晴らしい武器や能力になる、無意識の才能としての自立(スタンド)になりうる、と。

能力主義や市場競争の苛酷さを前提としながらも、その先で、強さと弱さ、正常と狂気、能力と無能力などの境界線を突き崩そうとすること。その先にあるかもしれない新たな潜勢力を解き放っていこうとすること。

むしろ、それこそが、人間にとっての自立(スタンド)の意味なのではないか――。

それが『ジョジョ』というマンガが私たちに教えてくれる、オルタナティヴな自己啓発の形であるように思える。

著者の新刊『ジョジョ論』

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