ザッカーバーグがハーバード大でのスピーチに込めた本当のメッセージ

これは歴史にのこる「建国宣言」だ
池田 純一 プロフィール

ベックが遺作で書き残したこと

このような現代アメリカにおけるザッカーバーグの取り組みの意義を、一段高いところから理解するためのよいガイド役となるのが、ドイツの社会学者ウルリッヒ・ベックの『変態する世界』だ。

排外主義を掲げるポピュリズム旋風が吹き荒れる昨今ではどうにも「アウェイ感」が拭えないが、ベックが賭けるのはコスモポリタン的世界への変化――もとい「変態」である。

ベックの「変態する世界」

ウルリッヒ・ベックは、80年代半ばに近代社会の変質を「リスク」という観点から明らかにした『リスク社会(邦題は「危険社会」)』という著作で国際的に知られることになったドイツの社会学者だ。残念ながら2015年1月1日に亡くなった。この本も、生前最後に執筆されたものだった。

ウルリッヒ・ベックウルリッヒ・ベック(1944-2015)

ベックがその遺作である『変態する世界』で論じているのは、現代社会を捉える際、旧来の国民国家をベースにした用語や価値観を前提にしていては、世界中で進行中のコスモポリタニズムに向かう動きを掴み損ねるということだ。

その様子をベックは端的に「コペルニクス的転回2.0」と呼んでいる。「天動説から地動説へ」の変化と同類の「世界観」の逆転が今まさに起こっているという。従来のような「国家が中心にあり、その周りを世界が回っている」と捉えられた時代から、「中心にあるのは世界であり、その周りを国家が回っている」時代への転回だ。

これをベックは「方法論的ナショナリズムから方法論的コスモポリタニズムへ」とまとめている。

 

そして、このような変化を形容するのに「変態」という言葉を用いる。

ここでいう「変態」とはもちろん「メタモルフォシス(metamorphosis)」のことであり、青虫が蛹を経て蝶へと転じる時の形態変化のことである。当人にとってはそれと気づかないうちに自身が変容していくあの「変態」だ。

つまり、変態後の「コスモポリタニズム」の世界では、今まで使ってきた「ナショナリズム」を前提にした「思考様式」も全てゼロから考え直さなくてはならない。政治や経済、法律などの社会的なしくみを支える言葉は、いずれも国民国家の存在、ならびにその下で稼働する産業社会や消費社会といったものを前提にしているからだ。

要するに、「ナショナリズム」というOSから「コスモポリタニズム」というOSへアップグレードされつつあるのだが、両者の間には互換性がないため、アプリ(=各種専門用語)についても新規にインストールしないと使えないわけだ。

もっとも、こう比喩的に言われても今ひとつピンとこないかもしれない。

そこで一つ補助線を引いてみよう。それは“Sapiens(『サピエンス全史』)”で世界的ベストセラー作家の仲間入りを果たしたユヴァル・ノア・ハラリによるベーシック・インカム批判だ。

サピエンス全史

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