東京オリンピック「経済効果予測」のオカシさを暴こう

「7兆~32兆円」の根拠ってなんだ?
森田 浩之 プロフィール

開催年に観光客が減る?

このように経済効果の試算には、突っ込みどころがいくらでも見つかる。

ひとつ言えるのは、東京都の試算にも、民間機関の予測にも「経済効果の試算は金額が大きいほうがいいだろう」という姿勢がすけて見えることだ。だから前にはなかった「レガシー効果」を加えたり、「ドリーム効果」を大きく見積もったりする。

これは正しい判断なのだろうか。へたをすると、試算に見合う効果が実際にもたらされなかったときの失望が大きくなるだけではないのか。

事実、オリンピックの「経済効果モデル」には、注意したほうがいい前提がいくつもある。

まず、オリンピックの開催年には外国から多くの観光客が来るという点。これは正しくない。世界銀行の統計によれば、2012年までの3大会(2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドン)の開催年に開催国を訪れた外国人は前年より減っているか、ほぼ横ばいだ。

 

大会招致が決まった年からのグラフを見ると、3大会の開催国すべてで、外国人観光客の増加傾向に招致決定の効果がうかがえる。開催決定前のトレンドに比べると、外国人観光客数のグラフの上がり方が急になっている。しかし肝心の大会開催年には、外国からの訪問客が前年より減っているのだ。

大会期間中の混雑や厳しい警備を嫌って訪問を避けたビジネスマンもいただろう。オリンピックが新たな訪問客と経済活動を呼び込むのは確かでも、それと引き換えに失う訪問客と経済活動もあるのだ。オリンピックに外国人が殺到するというイメージは、あまり現実的なものではない。

成長鈍化はなぜ起きたのか

たとえ観光客が思ったほどは来なくても、大会を開くために金を投じるのだから、経済は刺激されると思う人もいるだろう。だが、この前提も相当にあやしい。

慶応大学経済学部の土居丈朗教授のまとめによれば、夏のオリンピックでは1976年モントリオール大会から2012年ロンドン大会までの9大会(1980年モスクワ大会は除く)のうち、開催翌年に開催国の実質経済成長率がアップしたのは1996年のアトランタ大会翌年のアメリカだけだ。

しかも、開催年と開催前年の2年間と、開催翌年と開催翌々年の2年間の実質経済成長率を比較しても、9大会中6大会で成長が鈍化していた。

この成長鈍化はなぜ起こったのか。

大半の国で民間設備投資が鈍っていた点に、土居教授は注目する。さらに民間消費は、オリンピックの前後で必ずしも大きな変化がみられなかったという。言い換えれば、オリンピックを開くことで民間消費が恒常的に増加するわけではないようだ。

前回1964年の東京オリンピックのときには、日本も翌年に「昭和40年不況(証券不況)」と呼ばれる経済危機に見舞われた。発端は、オリンピックによる経済刺激効果がなくなったことだった。

オリンピックが終わると、景気は右肩下がりに推移しはじめた。開催前年の63年に1738件だった倒産件数が、開催年には2倍以上の4212件となり、翌65年には6141件を記録した。

大企業もこの流れには抵抗できず、65年には山陽特殊鋼が500億円という戦後最大級の負債を抱えて倒産。山一證券では経営危機に伴う取り付け騒ぎが起きた。山一の本支店には連日1万人を超える顧客が殺到し、1週間で177億円分の取引口座が解約されたという。

こうした不況が、2020年大会の後に待ちかまえていないとはかぎらない。