言論規制下の中国で、「ネット経済圏」が繁栄するフシギ

これが、「アメとムチ」の使い分けか
古畑 康雄 プロフィール

圧倒的なインフラを使った言論管理

だが、微信では管理会社、さらには当局のネット管理部門により、ユーザーの発信が常に監視されている。筆者も、友人が送ってくれた中国政府に批判的な文章が、あっという間に閲覧不可能になることはしばしばある。

微信では「公衆アカウント」と呼ばれる、いわばオンラインマガジンのような機能があり、時事的なテーマなどを発信する人が多かったが、これも政府に批判的な敏感なアカウントは次々と閉鎖された。最近はさらに、エンターテインメント系のアカウントすら封鎖されたという。

微信が登場する前に人気のあったSNSサービス、微博では、その書き込み内容を理由に当局から拘束された事件もあった。

 

昨年出版した拙著「習近平時代のネット社会」でも書いたことだが、微博で数十万のフォロワーがいた友人の漫画家、変態辣椒は、微博で中国政府を批判する漫画や、日本の良さを評価する言論を発表したことなどから、人民日報系のウェブサイトで「売国奴」呼ばわりされ帰国できなくなり、多くの人の支援で日本にとどまり難を逃れ、このほど米国へと移住した。

しかし、それでも筆者が最近、ある団体で中国のネットの問題について講演した際、知り合いの中国人記者から、マイナス面だけを見るのは色眼鏡で、ネットが中国経済に果たしている積極的役割も注目すべきとの意見があった。

筆者もネットがシェアバイクなど人々の生活を便利にしているなどプラス面は認める。だが一方で、起きているネット上の言論を理由に拘束され、辣椒のように中国に帰国できず亡命の道を選ばざるを得なかったなど、多くのマイナス面は存在する。そしてそれはいずれも中国政府が進めるネット政策というコインの表と裏の関係であり、端的に言えば「アメとムチ」の使い分けなのだ。

中国共産党政権は13億の国民が自ら定めた範囲でネットの利便性を享受することは認め、芸能界のゴシップや身の回りの話題、さらには政権への肯定的な評価など、“無害”なネットでの発信であれば、問題なく、さまざまな利便性を享受できる。だが一歩でもそこを踏み出せば、厳しい統制が振りかざされるのだ。

ご存じの方も多いと思うが、中国ではグーグル(Gメール、ユーチューブなどを含む)、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムなど欧米や日本では当たり前のように使われているサービスが利用できない。中国当局が真にネット経済の発展を考えているなら、こうした世界的なサービスを導入し、世界とつながることは当然必要だ。

拙著でも何度も取り上げた中国のネット規制「グレート・ファイアーウォール」(GFW)による規制があるためで、最近ではこれを回避するバーチャル・プライベート・ネットワーク(VPN)の利用も困難になっている。