リスクを負う覚悟もない
巨人の若手育成の失敗の背景には、ドラフトにおける〝目利き〟のなさも関連している。
かつて選手が行きたい球団を逆指名できる制度があった時期、巨人のスカウトは血眼になって選手を探す必要がなかった。資金力とブランドで、ドラフトの目玉は労せずして一本釣りできたからだ。
しかし、巨人のスカウトはその過程で他球団と競合してでもいい選手をとりにいく気概を失った。'07年に逆指名できる制度がなくなった後もその弊害は消えていない。それは今季、楽天で活躍する茂木栄五郎を獲り損ねたドラフト戦略にも表れている。
楽天の球団関係者が明かす。
「'15年のドラフトは、松井稼頭央の後釜となる遊撃手の補強が急務でした。茂木は六大学で10本塁打を放ち、そのパンチ力はオリックスから1位指名された吉田正尚と並ぶ高い評価でした。
しかし茂木は不整脈の持病と腰痛も抱えていた。楽天の球団内でも『遊撃手として1年間持つか』と不安視され、巨人を含めた他球団も、指名を躊躇したようです。
茂木は、早大での本職は三塁で遊撃の経験はほとんどなかった。それでも担当スカウトが茂木の情報をかき集めて『持病は問題ないし、遊撃でも行けます』と進言してきたのです」
梨田昌孝監督も腹をくくって茂木を起用し、才能を開花させたのだ。
巨人がドラフトで他球団と競合して獲得できた数少ない選手の中に大田もいた。大田の飛ばす能力に目をつけた、王貞治会長がいるソフトバンクとの競合だった。大田がいなくなった今、巨人のチーム内に逆境で流れを変えられる、スケールの大きな選手はいない。

前出の伊原氏が続ける。
「巨人の歴代監督はスタープレーヤーで、巨人の内情がわかる。その常識や常勝を求められる枠組みの中でやるので、『改革しよう』という考えがあっても、できないんです。
ですから、外部から監督を連れてくるのも一手です。阪神は、生え抜きではない金本監督が『超変革』を掲げて、若手を積極的に起用しています。『ダメならやめるから、自由にやらせてほしい』となれば、選手を大抜擢することもできます」
楽天と広島には、選手を発掘し、伸ばすための明確なシナリオとそれを断行する勇気がある。長く「大企業病」を患っている巨人を変えるには、よほど新しい血が必要だ。
「週刊現代」2017年7月1日号より