現地マネジャーが不正会計…375億円損した富士フイルムの「屈辱」

日本企業の海外買収はなぜ失敗するのか
週刊現代 プロフィール

古森会長の「責任」

その結果、明らかになったのが、外国人幹部の放漫経営とそれを隠蔽しようとした富士ゼロックス幹部の姿だった。

富士フイルムHDは6月12日、記者会見を開き、不正会計による損失は累計375億円に上ると発表した。

同社は古森会長が強烈なリーダーシップで率いる企業群として有名だ。それが、一子会社の、しかもそのまた子会社である海外販売会社の外国人によって「食い物」にされていた――。

古森会長と富士フイルムHDにとっては「屈辱」以外の何物でもなかっただろう。

とはいえ、古森会長は持ち株会社のトップとして、子会社のガバナンスに責任ある立場にいたことも事実。ところが、いつもは率先してメディアの前に登場する古森会長は、記者会見場に姿を現さなかった。

「富士ゼロックスによる粉飾決算は、富士フイルムHDの経理に直結する一大事です。責任の所在は本来、古森重隆会長にあります。

ところが、厳しい処分は富士ゼロックスの幹部だけに集中した。内部の人間によれば、古森会長に傷をつけないことが至上命令としてあったそうです。

事実、第三者委員会の調査報告書は、富士ゼロックスの売上至上主義を非難する内容で、古森会長の責任を指摘する記述は皆無。古森会長が、優れた財界人に与えられる旭日大綬章を受章するために手心を加えたとも言われています」(前出・経済誌記者)

古森重隆富士フイルムHD 古森会長 Photo by GettyImages

日本電産・永守会長が言う

富士ゼロックスや東芝にかぎらず、日本企業が海外進出で巨額の損失を計上する事例は枚挙にいとまがない。今年4月には日本郵政が買収したオーストラリアの物流会社トール社をめぐって、約4000億円の減損を計上したばかり。

なぜ日本企業の海外買収は失敗するのか。これまで数々のM&Aを成功させ、一代で世界的なモーター会社を作り上げた日本電産の永守重信会長兼社長はこう言う。

「日本企業による海外M&Aは、僕の見方では88%が失敗です。10%は変化なし、買収前より業績が拡大した成功例は2%だけでしょう。要因は高値づかみに加え、トップが自ら統合作業をやらないからです。

欧米はCEOが統合作業をやる。そうでないと買収先がコントロールできない。単純に会社の規模を大きくしたい、多角化で違う分野に進出したいといった動機は不純で、それでは相乗効果は生まれません。

ただ、日本企業が本格的に海外M&Aに乗り出して、まだ20年程度。慣れていない部分もあるでしょう。専門家が育つには30年程度はかかるので、最初はどうしても失敗が多くなる」

富士ゼロックスのケースも、日本国内での売り上げが伸びない中で海外での売り上げを伸ばそうとして、不正会計に突っ走った。日本企業が海外M&Aで失敗する理由をジョンソン・エンド・ジョンソンなどで社長職を歴任した国際ビジネスブレイン社長の新将命氏がこう整理する。

「まず、買収しようとする会社に対する評価が甘いという点が挙げられます。買収先の企業価値を冷静に判断せず、何としてでも買収したいという焦りのため、『高値づかみ』をしてしまう。

次に、買収相手との間に企業理念のギャップがあること。企業理念や企業文化が大きく乖離していると、人間関係がギクシャクして、業績にも悪影響を及ぼします。

3点目は、海外での経営を外国人に任してしまうこと。好き勝手やられてしまって、気がついたら大きな損失が発生していたというケースがよくあります」

 

また、土地勘がないところに進出して失敗するケースも散見される。代表はキリンホールディングスだろう。

「キリンHDは6年前、ブラジルの大手ビール会社を約3000億円で買収しましたが、今年2月に770億円でハイネケン子会社に売却し、ブラジルから撤退しました。

よく知らない地域での巨額買収は失敗するという典型例です」(神戸大学大学院経営学研究科准教授の保田隆明氏)

失敗から学び、海外で生き残るタフさがこれからの日本企業には求められている。

「週刊現代」2017年7月1日号より