築地市場を「第二の新国立競技場」にしてはいけない

徹底議論・築地再生は可能か
中沢 新一, 森山 高至

築地の特性を守るには

中沢 そして森山さんは、築地改修は可能だと考えている。

森山 可能です。「築地改修はコストがかかりすぎるから不可能だ」という意見がありますが、その根拠も薄い、と言えます。

確かに、かつて1980年代に計画された築地改修案は、見るからに大規模で実現が難しそうなものではありました。当時は日本がバブル経済に入りつつありましたし、築地市場が取り扱っていた物流量も史上最大水準で、いちばん忙しかった時代なんです。

当時のことを業者さんに聞くと、毎朝市場の周りには車の長蛇の列ができて、市場の中に入ると、移動するのに1時間かかるというような時代だったそうです。それに、当時はまだ築地の中で働いている人たちも独特の価値観を持っていたので、業者全体の意見を調整しながらうまくリニューアルするのは、非常に困難だった。それで結局、先送り先送りにされてきた。

その後、1990年代に入っていよいよ「どうしよう」となり、最終的に豊洲か築地かという議論をしたとき、もう一度「築地改修案」が出てきたんですが、これが事実上の再開発プランだったんですよ。

中沢 築地市場全体を潰してしまうというものですね。

森山 築地の土地を使うというだけで、いったん更地にしてビルを建てるという計画です。1990年代ですから、かなりオーバースペックな内容だった。

しかし、現在の視点からもう一度考えると、今は海外の観光客も含めて、30年前に比べて多くの人が「築地とは何か」ということを理解しています。ですから、かつてのような再開発計画ではなく、築地の機能と特性をいかに維持しながらリニューアルできるか、がカギになってきます。

昔よりも商品の流通量と業者さんの数は減っている。しかし、銀座や新橋、赤坂などの飲食店との連携は依然として重要なので、食文化のターミナルとしての機能は維持したい。こうした条件を考えれば、はるかに改修範囲はコンパクト化できると考えています。具体的にご説明しましょう。

 

築地再生のための「工程表」

森山 なぜ現在の築地が最盛期以上に混雑しているかというと、実は1991年に築地市場の現地再生がいったん決まっているんですが、このとき、少しずつ引っ越し準備を始めてしまったんです。仮設の建物を造って、事務所を一部移すとか。言うなれば、荷物を棚から出して、床に段ボールを並べた状態で「引っ越し中止」となったようなもので、そのために車両の通り道がなくなっているんですね。

では、どうすればいいか。まずメインフレームのリニューアルについては、今では古い建物を再生する技術が確立していますから、現在の建物の骨組みを活かしながら再生することができるはずです。

混雑の解消も課題です。現状、市場の敷地内には2〜4階建ての小規模な建物がたくさん建っていて、そのせいで通路が複雑に入り組んでしまっている。まずは、こうした建物に入居している場内の飲食店や商店に、いったん避難してもらう必要が出てきます。どこに移っていただくかというと、場外市場に中央区が昨年新しく建てた「築地魚河岸」という商業ビルがあります。移転が延期になったので今はガラガラですが、ここにまず移動していただく。そうすると、かなり場内のスペースが空けられます。

もうひとつは、市場の裏手にある加工場の低層建物群。これを収容する建物を、例えば場内の端のほうに新しく建てて集約します。

市場の真ん中の部分は「茶屋」と言って、いわば買い物客のプラットフォームです。細かく区画が分かれていて、それぞれ番号が振ってあり、例えば「森山魚店」とか「割烹中沢」みたいに住所が割り当てられている。仲卸業者の店で買い物するとき、「×番に持って行って」と言うと、後で商品が自分のところに届くというシステムなんです。この茶屋のエリアも一度、脇にずらします。一番混雑する真ん中のエリアを空ければ、建設作業のためのスペースも生まれます。

市場中央の3列の屋根が「茶屋」。その左側が飲食店などの入る低層建物 (Photo by gettyimages)

もうひとつ、築地市場の建物はかつて駅になっていて、鉄道が乗り入れて物資を運び込んでいたのですが、やがてトラック輸送に切り替わった。途中でシステムを根本的に変えてしまったので、トラックの動線がおかしかったり、通り抜けができなくなっている。なので、場内で弧を描いている道路を復元して、車が出入りできるようにします。とにかく通り抜けられるようにするだけでも、ずいぶん車両の流れを整理できます。

最近増えているのが「タッチ&ゴー」。つまり、築地で荷物を下ろしたトラックが、一部の荷物を降ろして、そのまますぐに別の市場に向かう。この流れを円滑にするためにも、トラックの通り道を確保することは非常に重要だと思うんですね。

そこまでできたら、あとは仲卸業者さんにブロックごとに分かれていただいて、例えばAチーム、Bチーム、Cチーム、Dチームというように、順番に別の建物へ一時避難してもらって営業を続けていただき、工事が終わり次第戻っていただく。この行程を繰り返せば大丈夫だと思います。青果部も同じようにして進めます。 

こんなふうに工夫すれば、築地のよさを生かしつつ、かつ古いままの施設を無理やり使うのでもなく、営業しながらリニューアルできるだろうと考えています。