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作家・山崎豊子はなぜ「男が惚れてしまう男」を描けたのか

キーワードは「敗戦」にあった
大澤 真幸 プロフィール

―なぜ山崎はこの作品で「善」を描くことができたのでしょうか。

本書の最大のテーマですが、彼女はこの作品で初めて「敗戦」を正面から取り上げたからだと思う。壹岐は戦前、大本営参謀の任にあり、戦後はシベリアで抑留される。

この時、壹岐は戦争に負けることがいかに惨めなのかを体験し、戦後は商社マンとして、公共のために働くようになった。「敗者」であることを正面から受け止めたからこそ、戦後の人生で「善」に向かうこともできた。『不毛地帯』以降も山崎は戦争を取り上げますが、これほど正面から敗戦体験に向きあった作家は、ほかに見当たらない。

 

―山崎が誰よりも正直に敗戦体験を描けたのはなぜでしょう。

ひとつは年齢。彼女は敗戦時に21歳でした。大人になったばかりの時点で人生の「リセットボタン」を押されるというのは非常にショッキングな体験だったと思う。もうひとつは、女だったから。戦前は女性に参政権もないですから、戦争遂行については男性ほど重い責任感はなかった。男性に比べ、オブラートに包まれたような状態で敗戦に接したからこそ、正直に描けたのだと思う。

敗戦は、現代の日本にとっても無縁ではありません。「対米従属」に象徴されるように、今も日本は敗戦のトラウマから抜け出せていない。山崎作品には、それを乗り越えるためのヒントが描かれているんです。

(取材・文/平井康章)

山崎豊子と<男>たち

週刊現代』2017年7月1日号より