提供:MHD
前編【きっかけは運命的な“じかあたり”】
(構成:島地勝彦、撮影:立木義浩)
谷川: 今日はボブに訊きたいことがいっぱいあります。すぐ企業秘密だと言われそうなんですが、訊いてもいいですか。
ボブ: もちろんです。どうぞ、どうぞ。
谷川: シマジのオヤジの大好きなポートエレンのことについてお尋ねします。どうしてポートエレンのファーストリリースのラベルには「ファースト」と書かれていないのでしょうか。他は「10th」とか「15th」とか、何回目のリリースかが明記してあるのに。前から不思議だったんです。
シマジ: 谷川、鋭い質問だ。
ボブ: そうですね。ファーストリリースはいまから16年前ですが、当時は多分、セカンドが出せるかどうか、わからなかっただけじゃないでしょうか。どれぐらい売れるのか、未知数だったでしょうし。
シマジ: でもすべてのシリーズボトルは、ファーストがなくて、必ずセカンドからはじまっていますよね。わたしが思うに、そこはやはり、英国一流のアンダーステイトメントのセンスで敢えて入れない方がいいと思っているんじゃないですかね。
ボブ: たしかにそれもあるかもしれませんが、本当のところはよく分かりません。
シマジ: でも、すぐに人気が爆発して、いまでは毎年、何回目のリリースかをデカデカと書いています。今年は16回目ですよね。
谷川: オヤジは当然購入するんでしょう?
シマジ: 悩ましいところなんだ。この間ボブがうちに来て、今年MHDがリリースする名酒のシリーズをいろいろと試飲させてもらったんだけど、わたしがいちばん美味いと思ったのはブローラ38年なんだ。ポートエレン16thは確かに美味いけど、ブローラ38年には負けていると感じたんだよ。
ボブ: 今回のポートエレンは37年ものでしたね。
シマジ: そうでしたね。でも、どちらか1本買うとしたら、ブローラ38年かなと思っているんですよ。
ヒノ: 迷ったら2つとも買えの精神の持ち主がなんでそんなに悩むんですか。
シマジ: ヒノ、今回のポートエレンは46万円もするんだぞ。ブローラだって27万円はするんじゃないか。2本合わせて73万円也だ。
ボブ: ポートエレン16thは税抜きで460,000円で、ブローラ38年は266,800円です。
ヒノ: シマジさん、ここはですね、ぼくたち担当編集者の日頃の労をねぎらうためにも、2本まとめて大人買いしてください。
立木: 心配するな。コイツが1本だけで満足できると思うか。必ず2本買うよ。賭けてもいい。でもシマジがこんなに逡巡するなんて珍しいよな。お前、どこか体でも悪いのか?
谷川: ぼくも2本買うと確信しています。ポートエレンについては、嬉しい話があります。ぼくが7年前に進呈したポートエレン・ファーストの空きボトルを、オヤジにしては珍しいことに、本店の玄関を入って右側の棚に飾ってくれているんですよ。
シマジ: そうそう、あれはお前の寛大さへのオマージュとして記念に飾ってあるんだよ。
谷川: オヤジは空瓶や箱にまったく興味がない人で、マッカランMデキャンタをはじめタリスカー34年などなど、ぼくはたくさん空瓶をもらいました。
シマジ: その代わりにわたしが谷川からポートエレンのファースト、セカンド、サード、マッカランの1978年の25年ものをもらったよね。
立木: シマジの仕事場を、足の踏み場もないほどボトルだらけにしている犯人は、谷川、お前だったのか。
ヒノ: ちょっと待ってください。それって、あまりにも不公平な取引きじゃないですか。
谷川: シマジ教の信者が教祖さまに貢ぎものをするのは当然なことです(笑)。でも、オヤジが偉いのはオールド&レアなボトルを受け取ると、必ずその場で開けてぼくと一緒に飲んでくれるところです。