嗚呼、裁判官たちの「第二の人生」は こんなに恵まれている

破格の退職金に安定年金、「天下り」も
岩瀬 達哉 プロフィール

簡易裁判所は、140万円以下の金銭を巡る訴訟や、交通事故の調停など、「日常生活における紛争を取り扱う身近な裁判所」(裁判所ホームページ)である。

簡裁の最大の特徴は、司法試験にパスしていないものの、書記官や裁判所職員の中から「簡易裁判所判事の職務に必要な学識経験のある者」が判事(裁判官)に任命されている点だ。

元簡裁判事の馬場周藏が1994年に刊行した著書によれば、「簡易裁判所の裁判官は、(書記官などからの)選考任命の者が大多数で、(裁判官など)法曹有資格者は、大都市の簡易裁判所に、六五歳過ぎの所長経験者が若干いる程度」とある(『裁判所で見たこと聞いたこと』)。

ところが、いまでは65歳前後の裁判官が、65名簡裁に天下っていたり、転籍したりしている。この理由を、ある裁判長はこう語った。

「行政官庁のように多くの天下り先をもたない裁判所では、大物裁判官の退官後の処遇先として、簡裁を受け皿にする以外にないのです。このほか、組織の新陳代謝のため、定年に近い大物裁判官に簡裁に移ってもらい、ポストを空けてもらっている。そうすることで、簡裁の充実にも繋がるというわけです」

簡裁の裁判長の定年は70歳なので、ここでも定年が実質5年延びることになる。

簡裁裁判長に転籍した裁判官には、給与とボーナスを含め年間約1534万円が支払われる。かりに5年つとめれば約7670万円。定年前に移籍し、8年勤務したとすれば約1億2000万円の収入となる。

忙しさという点で、先のふたつの天下り先とは比較にならないが、65歳前後から得られる収入としては不満のない額であろう。

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民間の1.5倍以上の年金

当然のことながら、この他にも手厚い年金が支給される。

裁判官の給与はもともと高額のため、最高裁長官も、地裁の裁判長(判事3号)も、納める保険料は同じ上限額で、加入期間の違いが生じるだけだ。

最高裁長官と同判事の定年は70歳で、一般の裁判官は65歳のため、加入期間に5年の差が生じる。

その差を前提として、妻が専業主婦との仮定で試算すると、夫婦で受け取れる年金額は、最高裁長官や同判事は月額約36万6000円。高裁長官や地裁裁判長クラスで月額約33万9000円となる。

サラリーマン夫婦が受け取る厚生年金の平均受給額約22万円と比べ、約6割から7割近くも多い。

このような元裁判官たちの優雅な「第二の人生」を目の当たりにして、参議院議員で法務委員会委員を務める有田芳生は、むしろ「司法の独立への危機が懸念される」と語った。

有田は言う。

「裁判官のOBといえど、ここまで政府や法務省から恩恵を受けているとなると、国を対象とした裁判が公正になされているかどうか、心配になってきます。

そのような疑念を抱かれないためにも、裁判所は、政府関係機関への裁判官の天下りの詳細を公開し、どのような批判に対しても真摯に答えていくべきでしょう」

たしかに、安定した老後を手に入れるため、最高裁に睨まれないよう自制する裁判官がいるとすれば、裁判が歪められ、公正な判断を受けられないことになる。国民にとっても、裁判所にとってもこれほど不幸なことはない。

(文中敬称略・以下次号)

 
岩瀬達哉(いわせ・たつや)
55年、和歌山県生まれ。'04年『年金大崩壊』『年金の悲劇』で講談社ノンフィクション賞を受賞。その他著書多数

「週刊現代」2017年6月24日号より