嗚呼、裁判官たちの「第二の人生」は こんなに恵まれている

破格の退職金に安定年金、「天下り」も
岩瀬 達哉 プロフィール

これら委員会のうち、初代から現在まで高裁長官経験者が委員長を独占しているのが「公害等調整委員会」だ。同委員長の年間報酬は約2385万円である。

この委員会は、「四日市大気汚染訴訟」や「水俣病訴訟」など、四大公害訴訟で裁判所が被害者救済に大きく舵を切ったことを契機に生まれた。

「裁判所が、一歩強力に踏み出さなければいけない。このままでいたのでは、それこそ国民が迷惑すると同時に、『裁判所は、何をしているんだ』と言われることになる」との危機意識から、被害者の立証責任を大幅に引き下げたのである。

第11代最高裁長官の矢口洪一は、自身の『オーラル・ヒストリー』でこう語っている。

「工場から本当に、その水銀が出て来ているのかどうかという因果関係の問題は、工場の排水口まで辿り着けたら、あとはいいんじゃないか、と。

大気汚染だって、四日市の周辺の人間が、みんな同じような難に遭っていたら、それこそ疫学的方法で、いいことにしたらいいじゃないか(とした)」

疫学的方法とは、病気の直接的な原因を特定できなくても、多くの患者の発病状況などを観察し、その原因を間接的に推認する方法だ。それを裁判上の証明に応用し、多くの患者を救ったわけである。

以来、同委員長ポストの国会同意人事は拒否されたことはない。

もうひとつの天下り先である公証人には、現在、139名の元裁判官が任命されている。全公証人497人中、約3割を占める人数で、あとは元検察官や法務省職員などからの任命だ。

公証人は、法務大臣によって任命される「実質上の公務員」だが、国から給与が支給されることはない。おもな収入源は、「取引に関する公正証書」や「遺言書」などの作成にあたって受け取る手数料収入である。ここから、公証役場(事務所)の諸経費を引いた残りが、公証人の収入となる。いわば、自営業に近い経営形態といえよう。

しかし各公証人によって、収入に差が生じることはない。元裁判官の多くが任命されている大都市の公証人について見れば、霞ヶ関や向島など担当する地域で格差がでないよう、公証人会が自発的に収入を共同管理したうえで、経費を差し引いた額を均等に分配する仕組みをとっているからだ。

大阪高裁管内の元地裁裁判長が言う。

「かつては、公証人の年収は3000万円を超えていましたが、いまはかなり下がっている。しかし、それでも年間で1500万円は下らないと聞いています。定年前の63歳で裁判官を辞めて、70歳まで公証人を務めれば、優に1億円の収入を得られる計算になります」

 

大物は簡裁判事に天下る

現役時代、法令遵守を国民に強いてきた裁判官や検事たちが、公証人に天下った途端、所得税法に抵触する「事件」を引き起こしたことがあった。

東京の公証人10人が、1998年までの3年間で、総額5000万円の税務申告をごまかし、東京国税局から追徴課税されたのである。

その遵法精神の欠如を、「読売新聞」はこう報じている。

「これらの公証人は、所得の申告に際し、高級レストランで妻と二人で個人的に食事をした代金や、家族旅行の費用などについて、公正証書を作成するための顧客との懇談・交際費として計上したり、遺言状作成のための出張旅費などとして申告していた。

中には、後輩の地検検事正らとのゴルフ代も経費計上していた悪質なケースもあった」('01年3月16日付)

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前述したように公証人は法務大臣が任命している。そのため国税庁は、過去、法務省傘下の検察庁との関係を壊しかねない公証人への税務調査を、敢えておこなってこなかった。脱税事件の摘発において、検察庁と協力して捜査や調査にあたる必要があるからだ。

そのタブーが破られるのは、この事件の3年前、東京地検特捜部が摘発した「大蔵省接待汚職事件」に起因している。

この捜査過程で、検察庁に呼ばれた旧大蔵省(現財務省)の官僚たちは、任意の事情聴取ながら耐えがたい屈辱感を抱かされたという。その意趣返しとして、公証人の申告漏れを指摘したというのだ。