警視庁作成「痴漢捜査マニュアル」その全容

痴漢対策で「駅前交番は地獄です」…
竹内 明 プロフィール

一方で、現場の警察官の負担はますます増している。筆者が知り合いの警察官たちに話を聞いてみると、こんな返事が返ってきた。

「正直、もう、痴漢対応にはウンザリです。JRの各駅、私鉄の急行停車駅を管轄する交番は終電が終わるまで気が抜けない。痴漢が一件発生すると、交番の警察官はかかりきりになり、他の事件への対応が疎かになる」(某署地域課巡査)

「痴漢被疑者を署に連れてきて、留置所に入れるまで6時間掛かる。臨場した地域警察官は、逮捕手続書、取扱状況報告書、列車の運行状況報告書など、膨大な量の書類を作成しなければならない。その間、交番は閉鎖、パトカーは休車になってしまう。ほかの事件に対応できません」(某署地域課巡査部長)

「最近は目撃者がいないと逮捕には慎重にならざるを得ない。送検した後も、検事から補充捜査の下命が来るので、生活安全課員はさらに時間を費やすことになる」(某署生活安全課警部補)

痴漢事件が増えるのは、夜の帰宅時間帯。だが、警察署は宿直で対応することになる。捜査を担当する生活安全課の宿直は3人程度。痴漢対応中に、自殺志願者や子供の行方不明など人命に関る事案が起きても、お手上げ状態だという。ある警察官はこう指摘する。

「殺人的な混雑が緩和されれば、痴漢は確実に減るし、同時に誤認逮捕も減ります。社用車で帰宅している行政と鉄道各社の幹部たちが、もっと連携して混雑緩和のための努力をすべきです。車両や信号システムの見直しに金をかけられないのなら、まずは男女別車両を試験的に増やしたり、私鉄各社による沿線の住宅開発を規制して人口集中を防ぐべきだ」

警察官の捜査がいくら丁寧になっても、痴漢行為を繰り返す者が実際に存在し、通勤電車の混雑が緩和されない限り、サラリーマンたちの恐怖は拭えない。それどころか、痴漢対応による警察官不足は、社会の安全そのものにも影響を及ぼすこともありうるのだ。

竹内明(たけうち・めい)
1969年生まれ。神奈川県茅ヶ崎市出身。慶應義塾大学法学部卒業後、1991年にTBS入社。社会部、ニューヨーク特派員、政治部などを経て、ニュース番組「Nスタ」キャスターなどを務めた。国際諜報戦や外交問題に関する取材を続けている。著書に『マルトク 特別協力者 警視庁公安部外事二課 ソトニ』、『背乗り ソトニ 警視庁公安部外事二課』など