警視庁作成「痴漢捜査マニュアル」その全容

痴漢対策で「駅前交番は地獄です」…
竹内 明 プロフィール

さらに近年、痴漢捜査で使われているのが、微物採取による科学捜査だ。「鑑識採証テープ」によって、被疑者の十指、両手のひら、手の甲、着衣から付着物を採取する。ここに被害者の服と同じ繊維片がついていれば、被疑者はクロということになる。

捜査マニュアルには〈採証テープは15セントメートルの長さ〉〈被疑者が採取に応じなければ捜索差押許可状を得て実施〉〈異物混入を防ぐため、採取者はゴム手袋、マスク、腕カバー、ヘアキャップを着装せよ〉〈被疑者に手を洗わせない。手をはたかせない〉などと注意点が並んでいる。これは無論、数少ない客観証拠をより正確に確保するのが狙いだ。

示談金目当ての”被害常習者”も

「痴漢捜査マニュアル」の中で、もっとも重視されるのが、被害者調書の作成方法である。

体に触れていた犯人の手を直接掴んで、その手を肘、肩と辿って犯人の顔を確認したのか。犯人の袖口、時計、指輪の特徴を言えるか。被害の後、犯人の腕を掴んで警官に渡すまで一度も手を離さなかったかなど、確認事項は詳細、多岐にわたる。

もし被害者が犯人の手を一度でも離していたら、取り違えの可能性を疑わねばならない。警察官は被害者に微細にわたる質問を繰り返しながら、矛盾点がないか検証していかねばならないのだ。

実際に被害に遭った女性からすれば、被害申告が疑われているように思うかもしれない。それなのに、なぜ、被害女性の申告内容をここまで細かく検証するのか。それは示談金目当ての「被害申告常習者」が存在するからだ。ある刑事はこんな事例を明かす。

「俺が取り扱った事件でも危ないのがあった。被害者は大手企業勤務の女性だったのだけど、被害にあったのが帰宅ルートとはまったく逆の電車、しかも痴漢列車として有名な車両に乗っていた。被疑者は否認しているし、女性の説明もあやふやで、矛盾があったから、念のために他の署に照会した。

するとその女性はあちこちで痴漢被害を訴えていて、合計数百万の示談金をとっていることがわかった。1件につき、50万から100万円とっていた。こういう連中もいるから、被害申告を鵜呑みにはできない」

示談金目当ての被害申告常習者をリスト化すればいいという声もあるようだが、実際に複数回、被害に遭う女性もいるわけで、「リスト化など不可能に近い」(警視庁刑事)という。

痴漢対応で「交番は閉鎖」

毎日、満員電車にもみくちゃにされているサラリーマンたちは痴漢冤罪の恐怖に震えている。被害申告を鵜呑みにしない捜査が徹底されるのなら、喜ぶべき話だろう。

だが実際には、この痴漢捜査マニュアルは、あくまでも「無罪判決を防ぐために捜査を尽くせ」というものであり、冤罪防止ではなく「無罪防止マニュアル」である。

サラリーマンたちが恐れるのは、誤認逮捕によって家族や会社に知られて人生が台無しになることなのだから、マニュアルは不安の根源を解消するものではないのである。