80歳すぎてガン手術「する」「しない」で日本中の家族が大モメ!

体力の衰え、高額な治療費…問題山積み
週刊現代 プロフィール

さらに近年、医療現場では、認知症を患う高齢患者の意思をどう確認するかが大きな問題となっている。もし認知症の親ががんになった場合はどうすればいいのか――。
前出の宮内氏が語る。

「欧米では、医療行為についても後見人の代理権を認めていて、認知症の人に代わって後見人が手術をするか、しないかを決めることができます。しかし日本医師会は『本人でないと決められない』と定めています。

とはいえ現実的には、認知症がある患者の場合、医師は家族に判断をゆだねることが多い。

ただし手術するには、家族全員の賛成が必要になります。たとえば子供が3人いて一人でも反対していると病院側は手術しません。手術後に家族からクレームや訴訟を起こされたら困るからです」

認知症の進行がひどいと家族の同意があっても手術できないこともある。帝京大学ちば総合医療センター消化器内科病院教授の小尾俊太郎氏が語る。

「寝たきりや、重度の認知症で意思疎通がうまくいかない場合は、患者さんの安全性が担保されていないので、いくら家族の方から手術をお願いされても、手術できないことがあります。たとえ手術自体はできても、術後に認知症による徘徊で傷口が開く危険性もありますから」

80をすぎれば認知機能は誰でも衰える。高齢でがんが見つかった際、家族で揉めないためには、事前の準備が必要になってくる。

高齢者の支援を行うNPO法人「二十四の瞳」の山崎宏氏が語る。

「家族間の意見の対立を未然に防ぐには、親が今から、がんになった時、何を望むのかを決めておいて紙に書くなりし、家族会議で直接伝えておくことが大切。がんの告知、がんの治療法、延命治療、最後の生活場所、資産承継の道筋などを決めて相続人と共有するのは、親の最後のミッションです」

中にはこんな意外な理由で手術するか、しないか大論争に発展することもある。杉野康夫さん(47歳・仮名)が語る。

「今年の正月明けに親父(80歳)に前立腺がんが見つかりました。ステージ2だったため、医者からも『手術して前立腺を全摘出すれば治る』と言われました。

親父は歳の割には元気だったので、手術に耐えるだけの体力もあるとのことでした。ところが10年前に母の死後に結婚した25歳年下の後妻がまさかの大反対をしてきたんです」

その理由を聞かされ、杉野さんはさらに驚いた。

「なんと後妻は『(手術したら)夜のほうができなくなるじゃない』と言うんです。もちろん医者からは、前立腺の手術をすれば勃起障害(ED)が起こるリスクは伝えられていましたが、親父には関係ないと思っていました。

だって命のほうが大事でしょ?というか、とっくに親父は枯れていると思っていた」

だが、杉野さんが父に問いただすとこんな答えが返ってきたという。

「後妻が『パパもそう(手術したくない)よね?』と同意を求めると親父は『俺も同じ考えだ』って言い出したんです。後妻に『もう私たちのことは放っておいて』と言われたので、それっきり話もしていません」

杉野さんはこう言って肩を落とすが、前立腺がんは進行が遅く、高齢者の場合は寿命のほうが先にくる可能性も高いので、「無理に手術する必要はない」という医者も多い。

 

金を払いたくないと言う息子

もっと切実に経済的な理由で、手術を巡って家族が対立することもある。

「高額療養費制度を使えば、患者さんの負担は確かに減りますが、それでもいくらかは実費がかかります。それを家族の誰が負担するかによって、治療法も変わる場合があります」(前出の矢野氏)

関西の大学病院に勤務する医師が、実際にあったケースを明かす。

「80代の男性が肺がんになったのですが、その治療法を巡り、家族が大きく揉めるケースを見たことがあります。その方はステージ2の非小細胞肺がんが見つかり、手術で切除か、放射線治療かの2択でした。

本人と妻は放射線治療の一つである陽子線治療を望んだのですが、これは先進医療のため保険が利かず、技術料が約280万円と高額のため、実の息子たちと治療法で対立しました。

私は本人の希望に沿うのが一番いいと思い、息子さんたちにもそう伝えたのですが、『父と母には支払い能力がないので、自分たちが医療費を負担することになる。子供の学費など自分たちが生活するだけでも大変なので余裕がない。だから保険が利く手術にしてほしい』と譲らない。

結局、患者さん本人が家を売却して陽子線治療をすることになったのですが、息子たちは遺産が減ったことを恨んでか、見舞いにも来なくなってしまいました。できれば家族が納得した上で治療したかったのですが」

まだこれからの人生が長い息子夫婦にすれば切実な問題ではあるが、あまりにも世知辛い。そうなることを避けたい、子供や孫に迷惑をかけてまで生きたくないと考える人もいるだろう。

「理想はやはり、本人、家族、医師がみなしっかり議論した上で結論を出すこと。そのためにできるだけ私たち医師も丁寧に根気強く説明しなければなりません。

患者さん本人とその家族が、手術のリスクと治癒の可能性をきちんと理解した上で下した判断であれば、結果がどうであれ、納得できるはずです」(前出の小尾氏)

術後介護の問題に経済的な問題と、80歳をすぎてのがん手術は本人だけでなく、家族全員に大きな影響を与える。正解がないからこそ、難しい。

「週刊現代」2017年6月17日号より