赤ちゃんは生まれる前からママのもとに「来たい」と強く願っている

ルポ「胎内記憶」の不思議【前編】
川内 有緒 プロフィール

動画の出産場面を実況中継!

最初に登場するのは、現在7歳の息子を持つアートディレクターの小熊千佳子さん(41)。彼女が胎内記憶の話を聞いたのは、息子の凛太郎くんが3歳の時だった。

週末の午後、千佳子さんと凛太郎君は、出産時の様子を撮影した動画をなんとなく見始めたそうだ。出産以来、動画を見るのは初めてである。二人でテレビの前に座ると、画面には、洋服を脱いで裸になり、大きなお腹で分娩用のプールに入る千佳子さんが写った。彼女は水中出産をしたのだ。

小熊千佳子さん 写真:著者提供

「せっかくだったら何か思い出に残る特別な体験をしたいと考えました。水中出産は、自分でいきんで、自分で取り上げて、最初に赤ちゃんを抱きとめるのは自分だというのが素敵だと思いました」
 
動画が始まると、凛太郎くんは恐ろしいほど真剣な顔になった。普段はわんぱくなのに、珍しく画面に集中している。
 
画面の中の千佳子さんは、陣痛が来るたびに体をまるめ、「うーん、うーん」と唸り、陣痛が収まると、ふーっと息を吐いて水中に浮かんだ。その二つの場面が延々と繰り返され、特に何も起こらないまま一時間ほどがすぎた。その間、凛太郎君はじっと画面を見つめていた。
 
やがて陣痛が強くなり、いよいよお産が始まろうという時、隣にいる凛太郎くんが泣いていることに気がついた。

 

「どうしたの」と声をかけると、千佳子さんに抱きつき、激しく号泣し始めた。そして、「うーん!」といきむ画面の中の千佳子さんとシンクロするかのように、「出たいー! 出たいー!」と大きな声で叫び始めたのだ。
 
千佳子さんは、驚きながら「大丈夫?」と息子を抱きしめた。
 
凛太郎君は、ひたすら千佳子さんにしがみつきながら、「出たいよー! 出たいよー!」と叫び続ける。そして「お腹の中でもずっと泣いてたの」「おとうさんの声が聞こえたんだよ」と、まるでその時のことを実況中継するかのように話し続けた。気がついたら千佳子さんさんも泣いていて、2人で抱き合いながら画面を凝視し続けた。
 
そして、2時間ほどが経過し、ついに出産の場面を迎えると、「でたー!」「やったー」と2人で喜びあった。
 
ほっとしたのも束の間、画面の中の千佳子さんが、生まれたての赤ちゃんを胸の上に抱いた瞬間に、再び凛太郎君は再び激しく号泣。

「どうしたの?」と聞くと、「起き上がりたかったー!」と答えた。
 
さらに千佳子さんが麦茶を飲んでいるのを見て、「凛太郎もお茶が飲みたかったー!」と泣く。これには、さすがに「えー!」と言って、千佳子さんも笑ってしまった。しかし、その直後の画面には、赤ちゃん(凛太郎君)が、自分の手をちゅうちゅうと吸っている場面が写った。それを見て、ああ、喉が乾いていたんだなあと納得したという。

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