魅惑の「最強古生物」電車1両サイズのナマコが鋭い歯でガブリ! 

面白いのは恐竜だけじゃない
土屋 健 プロフィール

その名は「奇妙なエビ」

アノマロカリスは、学名を「Anomalocaris」と書く。「Anomalo」は「奇妙な」、「caris」は「エビ」を意味するので、「Anomalocaris」は「奇妙なエビ」となる。なんとも史上初の覇者としては、シマラナイ名前だ。

たとえば、恐竜界の王者であるティラノサウルスは「Tyrannosaurus」と書き、「Tyranno」は「暴君」を意味し、「saurus」は「爬虫類」を意味することから日本語ではこれを「竜」と“意訳”する。すなわち「暴君竜」であり、その名にも“最強感”が溢れ出る。

こうした学名はラテン語で記されるものだから、日本語をベースにしてモノを考える私たちと、ラテン語に祖をもつ言語でものを考える欧米の人々とでは、おそらく後者のみなさんの方が名前からダイレクトにその動物をイメージすることができるだろう。

すなわち、ティラノサウルスの“最強感”は、欧米の人々の方が感じているのではないだろうか? そして、アノマロカリスという名前に“シマラナイ感”を、より強く感じているのではないだろうか?

学名は必ずしも「名は体を表す」ではないけれども、史上最初の覇者である動物に「アノマロカリス」という名前は、ちょっとモッタイナイ。

 

でも、これはシカタガナイことだ。

1892年にこの動物の化石が最初に発見されたとき、それは「触手の部分」のみだった。節のある細長いその化石をみて、研究者はこれを「エビの化石」と判断したのである。故に「アノマロカリス」という名前を与えた。たしかに、触手部分だけをみれば、エビの胴体にみえる。

アノマロカリスという生物の全貌が見えるまでには、その後、80年以上の歳月を必要とした。

1911年、今日ではアノマロカリスの口として復元されているパーツが、これまた単体で発見された。このときの研究者はこれを大きな「口」とは考えず、独立した「クラゲの化石」と判断した。

同年、のちのアノマロカリスのからだとして復元されているパーツが、またしても単体で発見された。これについては「ナマコの仲間の化石」と判断された。のちに、「ナマコの仲間」に「クラゲ」が乗っている標本が発見された(当たり前である。からだに口があるのだから)。しかし、このときは「ナマコの仲間の上に、偶然、クラゲが乗った」と解釈された。

その後、まず「エビの化石」をいくら調べても消化管などの内臓組織がみつからないことに気づき、1970年代末に「これはエビではなく、触手ではないか」と見なされるようになった。そして、1980年代から1990年代にかけて良質な標本が発見され、「エビ」「ナマコの仲間」「クラゲ」がそれぞれ同じ動物のパーツであることが確認されるようになった。

このとき、「ナマコの仲間」にも「クラゲ」にも独自の学名がついていた。しかし、学名命名の原則では、こうした場合は、最も最初に名づけられた名前に統一される。かくして、「Anomalocaris」、すなわち、「アノマロカリス」という名前がこの動物の名前となったのだ。