カルロス・ゴーン氏退任後の日産は「大躍進間違いナシ」

ゴーン・ウォッチャーが解説
国沢 光宏 プロフィール

怒らせてしまった

ゴーンさんがこうした異変に気づいたのが2015年。それまでは国内は日本人に任せていいと考えていたようだが、国内の業績を見て唖然とし、再び自ら陣頭指揮を執ることになった。

問題を徹底的に洗い出し、解決策をその分野の専門とともに見いだしていった。

ちょうどその頃、私はゴーンさんにインタビューしたことがあるが、同席したもう一人のジャーナリストが気に触る質問をしてしまったため、激怒してしまった。

と言っても感情をあらわにするような怒り方ではない。なぜあなたはそう考えるのか、と議論たたみかけてくる。おそらく、社内でも同じ感じだったのだろう。要するに縮こまっていく怒り方ではなく、話が広がっていく怒り方と言えばいいだろうか。

こうした激論を積み重ねたことで昨年末から日産に活気が出てきた。新しいメカニズムのハイブリッドを搭載した「ノート」や、日産が「プロパイロット」と呼ぶ自動運転機能を搭載した「セレナ」はその象徴だろう。

月間販売台数で「ノート」が1位を獲得。なんと2017年1月には1位「ノート」2位「セレナ」と上位を独占してしまう。ワンツーフィニッシュはなんと32年以上ぶりの快挙だ。

日産「ノート」と「セレナ」 Photo by GettyImages

念のために言っておくと、プロパイロットはあくまで簡易型自動運転である。矢沢永吉を起用したCMを見て世界初だと思った人もいるかもしれないが、既にベンツやボルボで実用化されている。

広告もよく見ると「国産ミニバンではじめて」と書いてある。「ノート」のハイブリッドも、三菱「アウトランダーPHV」やホンダ「アコード」にも同じ仕組みが使われている。あくまで「あのクラスで初めて」だ。決して嘘はついていないし、これは立派なイメージ戦略の勝利。褒めるべきだろう。

逆に言えば、こうしたイメージ戦略だけで企業は大きく変われるわけで、それこそがゴーンさんの経営者としてのセンスと言っていいだろう。

 

欲しいクルマがない

実は、これらの最近の日産のヒット商品にはある共通点がある。「ノート」も「セレナ」も国内専売車なのだ。「セレナ」で言えば、ミニバンなのに全長4700mm 横幅1700mm未満で、5ナンバー枠に収まっている。

また、ノートはこのクラスではかなりの高額だが、その分付加価値のある仕様にしている。ここが消費者に受けている理由だろう。

確かに世界市場を相手にした方が当たれば大きい。世界で通用して、日本でも売れるクルマを作れればベストだが、それは容易ではない。だとすれば、日本という大きな市場があるのだから、そこで確実に売れるクルマを作るべきだ。ゴーンさんはそう考えたのだろう。

自動車に限らず日本のメーカー経営者はもっとここを突き詰めて考えてもいいのではないだろうか。

日本仕様を増やすのが難しければ、日本仕様をベースにしながら世界で売れるクルマを作ることを考えてもいい。日本向けの使い勝手の良さを喜んでくれる国は世界にはけっこうあるはずだ。

日本で自動車が売れないのは若者が「買わなくなった」からというよりも、「欲しいクルマが少なくなった」からかもしれない。

実はアメリカで売っている日産車と国内の日産車はほとんどかぶっていない。アメリカはアメリカ用、日本は日本用と、作り分けをしている。部品の共通化でコストを下げるところは下げながら、お金をかける部分には惜しまない。このバランスがいい。それこそゴーンさんの戦略であり、力量と言っていいだろう。