北との統一にしか希望を抱けない、韓国の極度な経済閉塞感

「反日」とか、そういうレベルではなく
深川 由起子 プロフィール

顕在化する統一願望論

膨大な選挙公約の整理と政権ビジョンの発表が終わっていないため、文政権の具体的な経済アジェンダは不明だが、当面は道徳主義要求の強い「財閥」改革と、雇用改善が重視されるとみられる。少数与党だが国会議員選挙が2020年までないため、2018年の地方選挙の重要性が高く、これに直結するアジェンダが優先されるからだ。

6月に発表された「雇用対策100日計画」では今年中の公務員1万2000人追加雇用(選挙公約は81万人雇用)、雇用拡大企業への税制優遇や非正規職の多い企業からの負担金徴収、2020年までの最低賃金引き上げ(約1000円)、週68時間となっている法定労働時間の52時間への引き下げ、などが盛り込まれた。すでに公企業や大企業には大統領に「忖度」した正規職雇用増大圧力が強力にかかっている。

 

しかしながら、前述のように雇用問題は構造的な背景を有しており、政労使協調による構造改革が不可避だ。韓国の正規職賃金はとうに日米の水準を上回っており、最低賃金までもが凌駕して賃金全体がさらに上昇すれば国際競争はさらに困難となる。非正規職の多い中小企業には一層、厳しい条件となるだろう。

また、韓国の財政はまだ日本はもちろん、欧米に比べても債務が少なく、相対的には健全、とされる。しかし、高齢化で赤字幅が拡大する一方の地方財政や、連結されていないものの実は巨額債務を抱える公企業部門などを勘案すれば、公務員を大幅増員する財源は福祉支出の増大と相まって増税に頼るしかない。日本の消費税に相当する付加価値税はすでに10%で、現状の国内消費不振(及びこれに連動した自営業不振)を勘案すれば引き上げ余地はない。

他方、世界的な法人税引き下げの中で韓国だけが逆行すれば企業の国際競争力負担はさらに増す。公務員の増大は他方で育成を掲げるモノのインターネット(IoT)革命やベンチャー企業への人材供給とも矛盾する。

2017年は世界貿易が回復基調となり、極度の閉塞感が後退したのは幸いだが、「100日計画」でスムーズに構造改革が進まなければ、抜本的な雇用問題解決は難しい。支持基盤である労組がさらなる要求に走れば説得は難しく、「財閥」改革が一層、政治化して緊張が増すことも想定しうる。

北の体制変換という一発逆転

構造改革が進まず、再び閉塞感が高まる場合、北朝鮮に融和的な文政権の下では統一願望が増す可能性が少なくあるまい。北朝鮮さえ「(予測可能な方向に体制転換して)国際社会に復帰してくれれば」、韓国の閉塞状況は一変する可能性を秘める。

北朝鮮には膨大な開発需要が生まれ、いかに国内の賃金が上昇しようと北朝鮮の安価な労働力獲得でこれを相殺でき、ソウルの不動産価格はさらに上昇し、対GDP比2.7%程度の国防支出は削減され、不満の多い兵役も軽減できる。

北朝鮮の開発が軌道に乗ってベビーブームが到来すれば世界最速で進少子高齢化の負担も緩和される。北朝鮮との対峙路線を歩んだ朴槿恵政権も実は「グローバルリーダー、2040統一韓国ビジョン報告書」(2014年、外交安保研究院)で2040年代には南北の統一が完了し、韓国の1人当たり国民所得が8万ドル、北朝鮮も5万6000ドル(現在の韓国の2倍強に相当)というバラ色の姿を描いていた。

韓国には初の経済計画を策定した1962年の1人当たり所得87ドルを25年で3万ドル水準に引き上げたという自負があり、それがそのまま民族主義の土台の一つとなっている。米中のバランサー外交を展開して韓国主導の南北統一を果たす、と豪語した盧武鉉政権ほど傲慢になるかはともかくとして、閉塞感に沈めば沈むほど民族主義が浮上する構造に違いはないだろう。

経済的にも、政治的にも盧武鉉政権当時に比べて日本のプレゼンスは大きく後退している。閣僚人事をめぐって「反日」かどうかで大騒ぎする意味なく、強まる道徳主義と民族主義がどこに向かうか、を見極めることがはるかに重要であろう。

関連記事