ミステリー作家の僕が恋愛小説を読みこんだワケ

乾くるみさんが選んだ「私の10冊」
乾 くるみ プロフィール

6位の泡坂妻夫さんの『乱れからくり』は、目を見開くようなトリック尽くしのミステリーです。

乱れからくり

この作品のような連続殺人ものは、犯人がわからないままに犯罪が繰り返されていきます。二人以上を殺すからには複数の「点」同士をつなぐ動機がなくてはならない。そこに「推理の物語」が生まれてくるんです。あとは計画の綿密さですね。ここまで犯人は考えていたのかと犯罪の是非はおいて、「なんて頭のいいやつなんだ」と圧倒されてしまいます。

10位の『定本 映画術』は、ヒッチコックを同じ映画監督のトリュフォーがインタビューした本です。対談ではなく、ヒッチコックの全作品について、ひたすらトリュフォーが訊いていく。

底本 ヒッチコック 映画術

その質問は同業者ならではです。ヒッチコックが初めてカラーで撮影したときの失敗談や、当時はぜったいありえなかった、主演級の女優を映画が始まってまもない段階で殺してしまう手法についてなど、鋭く切り込んでいます。また、ヒッチコックは人を驚かせるのが生きがいで、そのためにあらゆる工夫をしたという裏話を明かしています。

この本を読むだけで、ヒッチコック作品を全部観た気にさせられるぐらいの深い内容です。

(構成・文/朝山実)

▼最近読んだ一冊

エラリー・クイーン推理の芸術「日本のミステリー作家にも多大なる影響を与えてきたエラリー・クイーンはダネイとリーの従兄弟同士のペンネーム。構想から執筆まで二人がどのように分担していたのか、また不仲になった舞台裏を明かす興味深い評伝」
 

乾くるみさんのベスト10冊

第1位『トリックものがたり
松田道弘著 ちくま文庫 入手は古書のみ
「ユリ・ゲラーがブームの頃、テレビが如何にして彼を超能力者に仕立てていったのかのからくりも紹介しています」

第2位『匣の中の失楽
竹本健治著 講談社文庫 1450円
「読了とともに自分が成長したように思える。『ドグラ・マグラ』や『虚無への供物』にも匹敵する本格ミステリー」

第3位『光車よ、まわれ!
天沢退二郎著 ポプラ文庫ピュアフル 660円
「少年たちが敵を倒すために三つのアイテムを探す。『ドラゴンボール』を髣髴とさせ、最後まで飽きさせない」

第4位『犬神家の一族
横溝正史著 角川文庫 680円
「名探偵金田一耕助は、謎を解くまではただの怪しい男。頭が良く、憎めないのがいい」

第5位『背中あわせのハート・ブレイク
小林信彦著 新潮文庫 入手は古書のみ
終章はあさま山荘事件の'72年。少年時代の恋はようやく結実するかに思えたが……

第6位『乱れからくり
泡坂妻夫著 創元推理文庫 840円
妻の素行調査を依頼した男が事故死。不可解な展開が続くからくり尽くしのミステリー

第7位『ブラウン神父の童心
G・K・チェスタトン著 中村保男訳 創元推理文庫 740円
「底辺を熟知した神父が探偵で、犯人に説教もする。バイブルのように読み返してます」

第8位『孔子暗黒伝
諸星大二郎著 集英社文庫 720円
「孔子の物語に伝奇小説的要素が盛り込まれ、漫画でここまで描けるんだと圧倒された」

第9位『スフィア 球体
マイクル・クライトン著 中野圭二訳 ハヤカワ文庫 700円(上巻)
「深海での異変を描いたSF。ジャンルにこだわらず書こうと決めた際に目標とした作品」

第10位『定本 映画術
A・ヒッチコック、F・トリュフォー 山田宏一、蓮實重彦訳 晶文社 4000円
映画の巨匠ヒッチコックがサイレント時代の処女作から、最後の作品までを語りつくす

週刊現代』2017年6月17日号より