山本一力「『あかね空』のあのシーンはこの本から拝借しました」

我が人生最高の10冊
山本 一力 プロフィール

これまで紹介したように、俺は翻訳ものを読むことが多かったんです。とはいえ国産でも好きな本はあって、いちばんは松本清張さん。ここには初めて読んだ清張さんの時代小説『かげろう絵図』を挙げました。

かげろう絵図

清張さんが言っていたことですごく印象深いことがあるんです。小説家は壮大な嘘をつく、しかし、すぐに見破られては仕様がないから、嘘を貫くために、まことを据えるんだと。

時代小説で言えばそれは正確な時代認識であり、風俗描写です。『かげろう絵図』は、11代将軍徳川家斉の治世がきちっと書き込まれている。当然、清張さんの作り話なんだけど、大奥を巻き込んだ権力争いがリアリティをもって迫ってくるんですね。自分が時代小説を書くようになり、この姿勢は大変役に立ちました。

池波正太郎さんも大好きで、中でも『剣客商売』にいちばん惹かれる。カミさんと結婚して子供ができたときに、名前を男なら大治郎、女なら三冬にすると決めていたくらい。だから、長男は大治郎です。

池波さんが描いたのは一言で言えば見栄のある男。そのイズムを、能書きや説教とは無縁のエンタテインメントで教えてくれる。だから、不滅なんだろうね。

(構成・文/砂田明子)

▼最近読んだ一冊

「冒頭は木嶋佳苗の顔がチラつくが、次第に主人公の記者が前面に出てくる。現実の事件を、見事なフィクションに昇華させた傑作。柚木さんは“女の友情はある”と信じている人だと思う。濃厚な話だがラストは心地よい」
 

山本一力さんのベスト10冊

第1位『ケインとアベル』(上・下)
ジェフリー・アーチャー著 永井淳訳 新潮文庫 上840円、下750円
ポーランド移民のアベルとボストン名門家のケイン。20世紀米国史を背景に、対照的な二人の成功を描く一大ロマン

第2位『あなたに似た人』(I、II)
ロアルド・ダール著 田口俊樹訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 各760円
10回連続でライターを着火するという奇妙な賭けの顛末を描いた「南から来た男」の他、上質でブラックな短編集

第3位『特別料理
スタンリイ・エリン著 田中融二訳 早川書房 2000円ほか
隠れ家レストランの特別料理はなぜ美味しいのか? エラリー・クイーンが絶賛した表題作はじめ、戦慄の全10編

第4位『かげろう絵図』(上、下)
松本清張著 文春文庫 各810円
家斉が寵愛する中臈と黒幕石翁vs.水野忠邦一派。権力に群がる醜くも儚い人間の姿

第5位『剣客商売』全16巻
池波正太郎著 新潮文庫 590円(1巻)
剣術ひとすじに生きる秋山小兵衛と息子・大治郎の名コンビが江戸の悪事を叩き斬る

第6位『クマのプーさん
A.A.ミルン著 石井桃子訳 岩波少年文庫 680円
「E・H・シェパードの味わいのある挿絵と石井さんの訳が魅力。俺は今もクマ好き」

第7位『新約聖書 福音書
塚本虎二訳 岩波文庫 1070円
福音書とはイエス・キリストの言行を使徒が記録し、喜びの訪れとして告げ知らせた書

第8位『絵のない絵本
アンデルセン著 矢崎源九郎訳 新潮文庫 290円
お月様が語るインド、中国、アフリカの話。「小学生の頃に読み、世界旅行に憧れた」

第9位『世界の七不思議大図鑑』
中岡俊哉著 二見書房 入手は古書のみ
「想像力を膨らませる原点になった本」。バビロンの空中庭園など、七不思議を紹介する

第10位「蜘蛛の糸」(『蜘蛛の糸・杜子春』に収録)
芥川龍之介著 新潮文庫 320円
「お釈迦様が静かに立ち去っていくラストに、相手に関心を持たれない怖さを知った」

週刊現代」2017年6月10日号より