「痴漢」と叫ばれ、線路に逃走して命を落とした男の悲劇…

これは、他人事ではない事件だ
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疑われたら、どうするか

二人の男性とも痴漢行為は否定していたが、もはや真相は闇の中。無実ならば、逃げずに堂々と主張すれば良かったと口で言うのは簡単だが、そう単純ではない。前出の鳥海弁護士はこう指摘する。

「駅員室に連れていかれると、ある種の定型的なマニュアルの対応のみがなされます。被害者と容疑者が別々にとどめ置かれ、その間、駅の事務員は最寄りの派出所に連絡する。

被害者側の誤解だった場合も、駅員が当事者の間に入って最低限の事実確認をすることなどはなく、加害者とされた人の言い分は一切、聞いてもらえません」

痴漢事件に精通する裁判官出身の弁護士、井上薫氏もこう語る。

「被害女性らに取り押さえられたら『私人逮捕』、『常人逮捕』となり、現行犯逮捕という手続きで、駆けつけた警察官に身柄を拘束されてしまうんです。

派出所あるいは最寄りの警察署に連れて行かれると、痴漢があったものとして取り調べを受けることになります。このルートに乗ってしまうと、なかなか逃れる術がありません」

前出の鳥海氏も言う。

 

「かと言って逃げた挙げ句に捕まれば、裁判では最大限に不利な証拠になります。当然、裁判官からすると『なにもしていないなら、きちんと主張すれば良かった』となる。

ですが、なにもしていないと主張しても解決しないから、社会問題になっているわけです」

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では、身に覚えがないのに痴漢を疑われた男性はどうすればいいのか。

「女性に疑いをかけられた時に一番やってはいけないのは、責任感から被害女性にきちんと説明したいと、ホームにい続けること。分かってもらえません。むしろ第三者が来る前に、やっていないと宣言して毅然と現場を離れてください。

暴力を使ってはいけませんが、出勤途中なら、そう言って仕事に行けばいいと思います。それは予定通りの行動ですから、逃げたことにはなりません。

駅員室にも行く必要はありません。駅員には拘束する権利はありませんから、たとえ呼び止められても従う義務はないんです。現行犯逮捕でなければ、逮捕状を発行するために十分な証拠が必要で、警察も慎重に捜査することになります」(前出・井上氏)

パニックになって逃げるのではなく、堂々と立ち去る。それが正解のようだが、いざ自分がその立場になったら……これは決して他人事ではない。

「週刊現代」2017年6月3日号より