巨艦・野村證券も動く!資産運用業界の「大淘汰」時代が始まった

金融庁の本気度がものすごい
橋本 卓典 プロフィール

もはや大手だけの問題ではない

とはいえ、宣言や方針を表明しただけで、業界がきれいさっぱり生まれ変わるわけではない。

銀行などの販売会社と資産運用、保険会社が結託して、手数料が高く、運用パフォーマンスが低い商品を顧客に売りつける従来型のビジネスが許されなくなれば、短期的な収益ダメージは避けられない。一方、中長期の資産形成の必要性が定着すれば、安定的な収益ビジネスにもつながる。

顧客本位のビジネスへの転換は、痛みを伴うのだ。しかも、収益が安定するまでにはタイムラグがある。すっかり変わりきるまでに我慢を強いられることもあるだろう。

そこで問われるのは、経営者の覚悟だ。

 

大手銀行、大手証券だけの問題ではない。独立系の資産運用会社では、金融庁の原則を受け入れるのか、いまだ態度を表明していないところも多い。

たとえばある運用会社では、実質的に同じ金融商品を、販売手数料のかからない直販と、手数料のかかる地方銀行の窓口の両方で販売している。金融庁の求めるフィデューシャリー・デューティーの観点から言えば、この場合、地銀の窓口では「資産運用会社から直接購入すれば手数料はかかりませんよ」というアドバイスをしなければならないことになる。

来年1月から始まる非課税20年の「積立NISA(少額投資非課税制度)」の対象となる金融商品には、運用実績や手数料による事実上の「選定基準」がある。金融庁の試算では、株式指数に連動するインデックス型と、個別株などに投資するアクティブ型の商品約5400本のうち、積立NISAの投資対象となるのはわずか1%程度の50本ほどにとどまる。

もちろん、積立NISAの対象にならない商品を販売、運用することそのものに問題はない。しかし、顧客本位へのサービスの転換を迫る金融庁の気迫を前にして、地銀、信金などの動きに変化が出てくるものと、筆者はみている。

今年秋以降、顧客本位の業務運営に関して検査を受ける見通しの地銀、信金は、積立NISAの対象となる商品、あるいは選定基準に近い低コストで運用実績のある商品を、窓口でも積極的に販売しようという傾向が強まるのではないか。

森長官からの強烈なメッセージ

金融庁の森信親長官講演する金融庁・森信親長官 photo by gettyimages

多くの銀行は、日銀の金融緩和で供給された資金をアパートローンやカードローンに回し、「貸し出しを伸ばした」と標榜しているが、これらが個人の資産形成にダメージを与えるのは必至で、金融庁の厳しい監視の目が向けられるのは言うまでもない。

個別株や外国為替証拠金取引(FX)などのリスクの高い投資は、これまでと変わらない。数10%のリターンを狙う株式投資も、市場には必要な経済行動だ。ひと山当てたいというたくましい個人投資家もいるだろう。

しかし、一般国民の資産形成は違う。長期でどのように運用し、資産形成に導いていくのか。資産形成サービスにかかわるすべての金融機関は、運用会社のみならず販売会社も、顧客本位=フィデューシャリー・デューティーに則った具体的な行動が問われる時代になるのだ。

金融庁の森信親長官は4月7日の講演で、鬼気迫る表情で強烈なメッセージを放っている。

「お客様が正しいことを知れば、現在作っている商品が売れなくなり、ビジネスモデルが成り立たなくなると心配される金融機関の方がおられるかもしれません。しかし、皆さん、考えてみてください」

「正しい金融知識を持った顧客には売りづらい商品を作って一般顧客に売るビジネス、手数料獲得が優先され顧客の利益が軽視される結果、顧客の資産を増やすことができないビジネスは、そもそも社会的に続ける価値があるものですか?」

「こうした商品を組成し、販売している金融機関の経営者は、社員に本当に仕事のやりがいを与えることができているでしょうか? また、こうしたビジネスモデルは、はたして金融機関・金融グループの中長期的な価値向上につながっているのでしょうか?」

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