テロ等準備罪が「現代の治安維持法」と言われることへの大きな違和感

何が似ていて、何が違うのか
中澤 俊輔 プロフィール

これに対して、テロ等準備罪の対象は、犯罪の実行を目的とする「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」である。さらに、団体の行為として二人以上で犯罪を計画すること、犯罪を実行するために資金または物品の手配、関係場所の下見などの準備行為が行われることを要件としている。抑止の対象は特定の主張ではなく、特定の犯罪である。

もちろん、何をもって「組織的犯罪集団」と認定するのか、犯罪の計画をどのように立証するのか、準備行為をどの時点で認めるのか、といった論点は重要である(この点は国連特別報告者も指摘している)。

団体規制を行う破壊活動防止法とは異なり、団体を指定する手続は規定されていない。「組織的犯罪集団」のレッテルを張られることへの懸念もある。しかし、合法的な政策提案すら制限した治安維持法とは、やはり区別すべきだろう。

また、テロ等準備罪については、治安維持法と同様に恣意的な捜査を懸念する声がある。戦前の警察は、裁判所の令状なしに被疑者を拘束できる手段――行政執行法や違警罪即決例――を持っていた。

これらは治安維持法よりも前から、警察が裁量的に用いていた。そして1941年の治安維持法改正によって裁判所の令状も不要となり、恣意的な運用が合法化されてしまった。さらに拷問も行われた。

現行の刑事手続でも任意捜査は可能だが、強制捜査を行うには裁判所の令状が必要である。恣意的な運用や人権侵害が制度的に担保されていた戦前の警察とは、区別してしかるべきである。

もちろん、冤罪や自白強要はあってはならないし、恣意的な運用は厳しく戒められねばならない。自民党、公明党、維新の会三党の修正案は、著作権法などの親告罪はテロ等準備罪でも親告罪として扱う規定や、自白強要を防ぐために取調の可視化を検討する規定を追加している。

今後の国会審議に期待するのは、法案の個々の問題点を具体的に詰めていくことである。

1928年の治安維持法改正に際して、目的遂行罪は見過ごされてしまった。与野党はTOC条約締結の条件を探りながら、対象犯罪の絞り込みや構成要件の明確化、捜査の適正化を議論し、立法府の機能を果たしてほしい。成立した場合も、野党は将来の政権交代を見据えて法改正を準備すべきである。

 

民主主義を維持するために

最後に、あらためて戦前の歴史を振り返りたい。

昭和期の日本は、治安維持法が猛威を振るったのと同時に、組織的な暴力やテロが人々を脅かし、政党政治を委縮させた。二・二六事件では朝日新聞社も襲撃された。こうした右翼や軍人の直接行動に対して、治安維持法は全く機能しなかった。

健全なデモクラシーを育むには、主張を縛るのではなく、暴力や犯罪を規制することこそが必要だった。政党内閣が治安維持法を生んだのはまことに皮肉だった。

治安維持法に反対した石橋湛山ら言論人や政治家も、その多くは政治的な主張が制限されてしまうことを危惧したのであり、目的のために暴力や不法行為に訴えることは否定した。彼らには言論で戦うという矜持があった。

私たちにも言論という手段がある。権力に対して個人の自由を守ること、暴力や犯罪による威迫によって言論の自由が脅かされないこと。民主主義を維持するためにこの二つをいかに達成するかが、歴史の教訓である。