テロ等準備罪が「現代の治安維持法」と言われることへの大きな違和感

何が似ていて、何が違うのか
中澤 俊輔 プロフィール

拡大適用という恐怖

まず、国体や私有財産制度が何を指すのか判然としなかった。

衆議院でも、これらの文言は明瞭でない、と疑問符が付いた。国体は教育勅語に使用されてはいたものの、憲法や他の法律には存在しない。政府は、国体とは統治権(主権)の所在、つまり天皇主権を指すと説明した。ただし、天皇機関説で知られる憲法学者の美濃部達吉は、国体の文字を使わず統治権を説明していた。

また、治安維持法が成立した当時、日本共産党は解党状態であり、革命を目指す団体は存在しなかった。国内の適用第一号は学生団体であり、しかも協議罪が適用された。

拡大適用を決定づけたのが、1928年の改正である。同年3月の日本共産党検挙の結果、被疑者の多くが共産党に加入していないことがわかった。

田中義一内閣は緊急勅令で治安維持法を改正し、最高刑を死刑に引き上げると同時に、目的遂行罪を新設した。目的遂行罪は結社を支援するあらゆる行為が対象となり、警察の恣意的な運用を可能としてしまった。

以後の歴史は割愛するが、治安維持法の検挙者は1945年に廃止されるまで、国内だけで約7万人に上った。労働組合、宗教団体、植民地独立運動、社会主義者、自由主義者などに及び、国体変革など全く想定していない人々も対象となった。テロ等準備罪を懸念する声も、こうした拡大適用を踏まえてのものだろう。

 

二つの法律の類似点と相違点

治安維持法とテロ等準備罪は、どこが似ているだろうか。

第一に、特定の目的を持つ団体を対象としている。団体を規制するのではなく、団体に関与する人を対象とする点も似ている。第二に、国際的な要因(ロシア革命、TOC条約)が成立の背景にある。第三に、過去の廃案を踏まえて法案を修正している。第四に、連立内閣で提出されている。

それでは、テロ等準備罪と治安維持法はどこが違うのだろうか。

まずはっきりさせなければならないのは、治安維持法が槍玉に挙げた国体の変革と私有財産制度の否認は、政治体制や制度の変更であり、それ自体は犯罪ではなかった点である。

日本国憲法は明治憲法の改正手続に従って制定され、天皇から国民へと主権が移行している。しかし、治安維持法はそうした合法的な変更すらも禁止したのである。

法案の段階では、政体の変革も対象になっていた。政治制度や私有財産制度を改革するために、政党が憲法改正を準備することも違法となりかねなかった。衆議院では批判が相次ぎ、政府答弁にも揺れがあった。与党の修正で政体は削除されたが、政党、特に無産政党の政治的主張は狭められた。