東芝が倒産する日~「日本経済史上最大級の惨事」はいつ起こるのか

カウントダウンが始まった
大西 康之 プロフィール

「三次入札」が実施される不思議

しかし東芝の命運をかけたディールは早くも躓いた。通常、この規模の大型案件は二度の入札で買い手が決まる。

一次入札で「様子見」の応札を振り落とし、本気で買いたい企業だけに絞り込んだ二次入札で勝負を決する。故に二次入札は「最終入札」とも呼ばれる。

応札したのは4陣営。

冒頭で紹介した産業革新機構・KKR連合、シャープを傘下に持つ台湾のEMS(電子機器の受託生産)鴻海(ホンハイ)精密工業、米半導体メーカーブロードコム・米投資ファンド、シルバーレイク連合、そして韓国半導体メーカー、SKハイニックス・ベインキャピタル連合である。

しかし産業革新機構・KKR連合は政策投資銀行や日本の電機メーカーにも出資を呼びかけるなど、資金集めや投資回収の方法を巡って調整が遅れており、応札次に金額を提示できなかった。

一次入札の最高額はホンハイが提示した3兆円弱だったが、産業革新機構・KKR連合が集めた資金はまだ2兆円に及んでいないと見られる。

東芝は産業革新機構・KKR連合の体勢が整うのを待ち6月に三次入札を実施する構えだが、他の応札者からは「おかしい」との声が上がっている。

国際商慣行に則れば、二次入札が「ファイナル」であり、そこで金額を提示できなかった産業革新機構・KKR連合は、本来なら資格落ちのはずだ。

しかし東芝は本来の締切である5月19日に間に合わなかった産業革新機構・KKR連合の準備が整うのを待つ構えだ。

背後には、ホンハイやSKハイニックスといったアジア勢への売却を「技術流出」と捉えて忌み嫌う経済産業省の意向がある。

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「原発推進」企業・東芝を救いたい経産省

世耕弘成経産相はかつて、東芝メモリが技術流出の恐れがある外資企業に買収されそうになった場合「外為法を使って阻止することも検討する」と語っている。

ホンハイ、SKハイニックス・ベインキャピタル連合を「除外」すると、残るのは産業革新機構・KKR連合とブロードコム・シルバーレイク連合。

経産省が、自分たちのグリップが効きやすい産業革新機構・KKR連合に買わせたがっているのは見え見えだ。

だが産業革新機構・KKR連合の提示金額がアジア勢より低かった場合、「技術流出の懸念」という、曖昧な理由でアジア勢を振り落としたのでは、東芝の株主や債権者(特に銀行)が納得しないだろう。

2016年にホンハイがシャープ買収に名乗りを上げた時も、「技術流出」を懸念する経産省は産業革新機構に対抗の買収案を出させたが、シャープのメーンバンクは最終的に出資金額の大きいホンハイを選んだ。

今回も構図は同じである。

東京電力福島第一原発の事故後も「原発推進」の旗を下ろさない経産省。

その経産省が原子力延命のためにひねり出した「原発の海外輸出」という「国策」に忠実に従ったのが東芝だった。

その結果、東芝は米国の原子力事業で1兆円近い損失を出して存亡の危機に陥った。

東電を筆頭とする電力会社に地域独占を認め、ピーク時には年間4兆円を超えた設備投資が東芝など重電大手を潤した。

この社会主義的な構図こそ、日本の総合電機の国際競争力を弱めた元凶である。詳しくは拙書「東芝解体 電機メーカーが消える日」(講談社現代新書)を参照いただきたい。

この甘えの構図を断ち切らない限り、東芝の真の再生は実現しないはずだが、それでも東芝は国にすがる。