なぜイギリスは「EU離脱vs残留」の国内分裂を修復できたのか

同時並行で進む英仏の「実験」
笠原 敏彦 プロフィール

ポピュリズムというのは、ある種、「炭鉱のカナリヤ」のような存在であるべきものだろう。その危機警告システムがなければ、庶民に鬱積する不満に気づくことなく、エスタブリシュメントによる政治が続き、最後は社会が暴発しかねない。

主要政党が民意を受け止めるという点において、イギリスの政治土壌には、過激主義を浄化する機能が働いているように見える。「否、保守党自身が過激化しているだけだ」という見方をするなら別ではあるが……。

いずれにせよ、今回の選挙キャンペーンでは「ポピュリズム」という言葉自体があまり聞こえてこないようである。

英仏両国、それぞれの「実験」

最後に、EU国民投票後のイギリスの事情と、無党派のエマニュエル・マクロン新大統領を誕生させたフランスの事情を比較してみたい。

フランスのマクロン新大統領〔PHOTO〕gettyimages

マクロン氏は39歳という若さと大胆な行動力から脚光と期待を浴びている。

その一方で、マクロン氏が任期5年で失業率改善や経済格差縮小などで成果を上げなければ、次期大統領選ではEU離脱を志向する極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン氏が今度こそ大統領になるだろうという警告が早くも出ている。

過去2代のフランス大統領はともに再選を果たせていない。ネット時代のスピード感の中で、即席で結果を求める「短気な民主主義」はフランスでも例外ではないようだ。マクロン氏に与えられた期間は5年と見た方が賢明だろう。

 

こうした状況下、マクロン氏は「EUの中のフランス」という方向性を強調している。EU改革、特にユーロ圏の財政統合の深化を図るため、ユーロ圏の共通予算や財政相ポストの新設など野心的な政策を打ち出している。

EU、つまりその盟主であるドイツの経済力をフランス経済の再生に活かそうという計算のようだ。

こうした姿勢は、EUを絶対視する層からは拍手喝采を浴びている。しかし、フランス国内の民主的手続きの在り方としてはどうだろか。

大統領選では4割以上の有権者が反EUを掲げる候補に投票した。フランスは2015年の欧州憲法条約批准を問う国民投票ではこれを否決。1992年のマーストリヒト条約の国民投票での賛成はわずか51%だった。

その中で、欧州統合という理想に再び突き進もうとするマクロン氏。そこに垣間見えるのは、フランス流のエリート政治ではないだろうか。

フランスの民主主義は、マクロン的な政治手法に耐久性をもつのか。

フランスとEUに今後5年間、改革の失敗はルペン大統領誕生につながりかねないという影がつきまとうことは間違いない。

* * *

国民投票の結果を実行に移してEUを離脱し、フルスペックの主権国家として再スタートを切ろうとしているイギリス。一方で、国民の半数近くが不信を持つEUに国家再生の道を探ろうとするフランス。

EUはグローバル化時代の地域統合のモデルとして注目されてきた。同時並行で進む英仏両国の「実験」の成否は、グローバリゼーション下の民主主義の在り方に一石を投じるものとなりそうだ。

ふしぎなイギリス