なぜイギリスは「EU離脱vs残留」の国内分裂を修復できたのか

同時並行で進む英仏の「実験」
笠原 敏彦 プロフィール

メイ首相の巧みな政治手法

4月18日に解散総選挙を表明したメイ首相は、この選挙を「ブレグジット総選挙」と位置づけ、EUとの離脱交渉に強い立場で臨みイギリスの国益を守るためには、国民の力強い支持が必要だと訴える。

イギリス社会が分裂先鋭化に向かわなかった背景には、メイ首相の巧みな政治手法もあるようだ。このあたりの事情については、米保守系政治誌「ナショナル・レビュー」に掲載されたジョン・オサリバン元同誌編集長の記事(電子版、5月6日付)に注目したい。

イギリスは1973年、保守党のヒース政権下でEUの前身のEC(欧州共同体)に加盟。保守党内には大陸欧州との距離感で対立があり、その後、欧州問題は常に同党の不安定要因となってきた。

昨年の国民投票でも、残留支持のキャメロン首相(当時)と離脱支持のボリス・ジョンソン現外相らが鋭く対立している。ちなみに、メイ首相は残留派だったが、積極的に行動しなかった。

オサリバン氏は記事で、保守党がブレグジットで団結し、党内亀裂が修復されつつあると指摘。同党の伝統的なアイデンティティとして、①経済的自由主義、②ブリティシュ・ナショナリズム、③イギリスの国益は何かを定義し・それを守り・増進する、の3つを挙げ、この間の経緯を説明している。

その大まかな趣旨は以下の通りである。

イギリス政治では1950年代後半から、国力衰退への答えとして統合欧州に参加する考えが生まれた。それは、非社会主義的な方法での国家近代化への答えだともされた。③を信奉する指導者らが保守党を説得した。

しかし、保護主義的で規制が多く、中央集権的な政治、経済構造を持つEUは、保守党のアイデンティティ(①・②)とは相容れないものだ。統合が進むに連れて、その矛盾は大きくなっていった。

そして、ブレグジットの投票結果は、3つの伝統を重んじる各派が相互に尊重し、離脱を支持することを可能にした。このことは、総選挙での幸運をもたらしている。保守党の欧州路線を嫌って離反していた支持者らが再び戻りつつある。

総選挙での保守党優位には、野党第1党・労働党のジェレミー・コービン党首が急進左派の立場を取り、多くの有権者が「首相にはできない」と考えていることなど、様々な要因があるだろう。

しかし、保守党を中心に考えた場合、オサリバン氏の分析は説得力を持つように思える。

 

低下したポピュリストの存在感

グローバリゼーションという大状況下で、「民主主義の危機」が叫ばれて久しい。

この点から興味深いのは、イギリス総選挙では移民やマイノリティ差別などを扇動する過激なポピュリスト政党の存在感があまりないことだ。

EU離脱の国民投票実施においては、右翼政党UKIPを率いたナイジェル・ファラージ氏(国民投票後に党首辞任)の存在が大きかった。本来なら今総選挙で党勢を拡大してもいいはずだが、その機運はない。

ナイジェル・ファラージ氏〔PHOTO〕gettyimages

UKIPは前回総選挙(2015年)で12%の票を集めたが、現在の支持率は9%に留まる。メイ首相がEUからの強硬離脱を訴えていることで、前回UKIPに投票した有権者の受け皿となっているようだ。