転勤を断ると出世できない…裁判官の世界はまるでサラリーマンのよう

彼らの「人事評定」を本邦初公開!
岩瀬 達哉 プロフィール

高裁長官が評価を決める

人事の難しさは、裁判所においても例外ではない。個々の裁判官の評価は、地裁の所長が作成した「評価書」をもとに、高裁長官によって決定される。

「極秘」の文字とともに、A4判1枚のペーパーにまとめられた「評価書」は、「事務処理能力」、「組織運営能力」、「一般的資質・能力」の3項目に分けて記載されている。

そもそも、限られたスペースしかないうえ、実際、そこに書き込まれている評価は、誰が見ても、表面的な人物評価でしかない。

また、表現も似たりよったりで、手許にある複数の「評価書」には、「事務処理にも慣れ、適切に処理している」とか、「書記官室によく出入りし、気さくに声を掛けている」など、定型文が並んでいる。

地裁の所長を務めたことのある元裁判官は、「評価書」の持つ意味内容をこう解説する。

「『評価書』は、各裁判官の上司である裁判長(部総括)の書いた成績査定表をもとに作成するのですが、それを受け取ってから人事異動の内示まで3ヵ月程度の時間しかない。

ただでさえ忙しい所長は、よく分からないまま、時間にせかされて書いているというのが実態ではないでしょうか」

同元所長の話が続く。

 

「地方の裁判所には、目立たないけれど、この人は事実を見る目が確かだなという人が埋もれている。記録をよく見るし、よく考えるし、事件の筋を証拠に照らして読んで、判断も的確という人を引き上げるための『評価書』でなければ、本来、おかしいわけです。

いまのような『評価書』では、有能な人材をなかなか発掘できない。人的資源の活用には、役立っていないというのが正直な感想です」

いわば、通り一遍の「評価書」を基本資料として、高裁長官案が作成され、最高裁事務総局人事局の任用課長が調整し、最高裁事務総長が承認する。それがそのまま最高裁長官案となり、裁判官の全国異動が始まるわけである。

ただ、事務総長がチェックする最終段階で、人事案から外される裁判官もいる。

「ある事務総長が、この裁判官は、事務総局には入れない。地方の裁判所に出せといって、高裁長官案を変更させたことがあります。

かつて、その裁判官が、事務総局のトップに意見を言って、反感を買ったことがあった。その際、事務総局のトップは、俺の目の黒いうちは、こいつにはいい目をさせない、と言ったといいます。実に、その言葉通り、人事で冷遇したというわけです」(元裁判官)

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同様に、高裁長官や同事務局長に意見したり、彼らの意見に同調しなかったことで、冷遇される裁判官もいる。

これは、表向きの「評価書」とは別に、もうひとつの「閻魔帳」があって、冷遇すべき裁判官の氏名などが記載されているということだろう。

現物を見た者はいなくても、裁判官は誰しも、そう信じて疑わない。

だからこそ、多くの裁判官は、自己規制し、上目づかいで上司の顔色をうかがう「ヒラメ裁判官」になっていくのである。

裁判所は、単に閉鎖的であるというだけでなく、上下関係に厳しい階層社会でもある。

たとえ現職でなくても、プライドの高い元最高裁判事に、正面切って注意などすれば、思わぬ厄災に見舞われるという。OBといえど、彼らは、最高裁の中では顔であり、かつての部下が事務総局で要職を占めている。そんな彼らの機嫌を損ねると、まことしやかな噂を流され、足を引っ張られることになる。