ラスベガスの地下住民は、やっぱり実在していた…!

丸山ゴンザレスのクレイジージャーニー裏日記⑨
丸山 ゴンザレス プロフィール

地上で暮らすとカネがかかるだろ

この洞窟のような地下道は、砂漠の町であるラスベガス特有のものだ。砂漠に降った雨は地面に染み込むことなくはけ口を求めて流れてくる。いくつもの雨水が集まって鉄砲水となってラスベガスに襲いかかる。街の施設への直撃をさけるために建造されたのが、無数の地下水路なのだ。つまり鉄砲水の逃げ道となっている。

入り口から10メートルも進めば薄暗くなった。さすがに夜目はきかないので、歩く速度は一気に落ちた。おかげで周囲をゆっくり観察できる。まず気がついたのは体感温度というよりもトンネル内の空気だった。

日差しが遮られたことで涼しくなったが、不快な感じはなく、むしろ過ごしやすいとさえ思った。時々吹き抜ける風も爽やかな感じだ(ウソみたいな表現だが)。この空気の流れのためかもしれないが、異臭はとくになかった。乾燥した気候も手伝っているのだろう。

そのまま歩き続け、やがて完全な暗闇になり、50メートルも進まないうちに、散乱するゴミがライトに映し出された。主にビール缶などの生活ゴミではあるが、風で飛んで来るようなものだけではない。ほかにも寝袋や毛布などもたたまれた状態で放置されていた。

 

確実に誰かが生活していたのは明らかだった。そして、このすぐ先に「会いたかった人」がいた。もっと劇的な出会いになるかと思ったが、相手は完全な睡眠状態…。通路に直接敷かれたマットレスと布団にくるまって寝ている。昼過ぎだったので昼寝かなにかだろうと予想した。つまり眠りはそれほど深くない……はず。

「すいません。日本から来たジャーナリストです」
「あ!?」

男性は怒っている風ではないが、いきなり起こされて見知らぬ外国人に囲まれて戸惑っている感じだ(『クレイジージャーニー』のスタッフも同行していた)。まあ、これがアパートの部屋に寝ているところを侵入してきた人にインタビューされたというのであれば、私だってキレるとかいうレベルではないだろう。ここが地下通路で個人宅ではないことも手伝って「すいません」と謝った。

「この街の地下で暮らしている人にインタビューをしています。あなたの話を聞かせてもらえませんか」

「いいけど……何が聞きたいんだよ」

快諾とはいかなかったものの、事情を説明して勘弁してもらうことができた。ようやく念願の地下住人第一号に会えたのだ。ここは取材者として踏み込むしかない。

男性の風貌は、ヒゲのないサンタを薄汚れさせた感じ。ジョンと名乗っている。ヒゲなしサンタのジョンさんは見た目50代ぐらいと思われる。不潔感も威圧感もない。

「夜勤明けなんだ。ちょっと一服させてくれ」

タバコを咥えて火を着けた。煙が流れていく。よく見れば彼の周囲には多くの吸い殻が落ちている。それも尋常な量ではない。オフィス街にある灰皿が設置されたコンビニをひっくり返せばこのぐらいの吸い殻は転がるだろうが、とても個人で吸っている量ではない。現在のアメリカでタバコは一箱8ドル前後(900円くらい)である。これだけの量を買い揃えるだけでも相当なものだ。とはいえ、タバコを買える資金力については彼の口からさっそく出ている。

「夜勤というと、お仕事をされているんですか?」
「そうだ。コンビニで働いている」

ホームレスでも仕事をしている人は珍しくはないのだが、彼の場合はパートタイムでしっかりと働いている。それならば地上である程度はまともな暮らしを送れるのではないだろうか。そんな疑問が顔に出ていたのだろう。ジョンさんがニヤつきながら言った。

「地上で暮らすと家賃が高いだろ。俺は寝に帰ってくるだけだから、これで十分なんだよ」

「きちんと計算されているんですね。でも、そんなに生活設計ができるあなたがなぜこんな暮らしをしているんですか?」

「前はバーを経営していたんだ。おかげで数字には細かくなった。けっこう流行っていたと思う。それが、人生はわからないよ。離婚でかみさんに店を持って行かれたんだ。ちょうど娘も大学に行くタイミングだったし、もうなんか全部が嫌になってここに来たんだ」

ジョンさんは、深くタバコを吸って過去を回想しているようだった。