「万歳ナチス」と本気で作詞? 名作詞・作曲家たちの知られざる逸話

あのオカルトソングから東大応援歌まで
辻田 真佐憲 プロフィール

「万歳ナチス」と本気で作詞

白秋には、時局的な歌の作詞依頼もたくさん舞い込みました。白秋はかなりの数の軍歌を手がけており、『白秋全集』も巻によっては軍歌だらけのものもあります。

いやいや作っていたのだろうと思いきや、かならずしもそうではありませんでした。むしろかなり意気込んで作っていたものもあります。

来日するヒトラー・ユーゲントを歓迎するため、大日本連合青年団の依頼で1938年に作詞した「万歳・ヒットラー・ユーゲント」がその典型です。

すごいタイトルの歌ですが、内容もそれに負けず劣らず激越です。ちなみに、こちらは山田ではなく、日本放送協会洋楽部の高階哲夫によって曲付けされました。

燦たり、輝く
ハーケン クロイツ
ようこそ遥々、西なる盟友、
いざ今見えん、朝日に迎へて、
我等ぞ東亜の青年日本。
  万歳、ヒットラー・ユーゲント
  万歳、ナチス。

なんというナチス讃歌。白秋先生、大丈夫ですか、と心配になってしまいますが、本人は「日出づるところの天子、日没するところの天子に書を致す」の精神で書いたと自負しています。

つまり、ドイツに媚びず、対等の立場で、日本の存在もアピールしたというのです。

そのため、歌詞の改変には敏感に反応しました。

じつは、ドイツ語の発音を正確にしようということで、ラジオ放送で「ハーケンクロイツ」「ヒットラー・ユーゲント」「ナチス」などの単語がドイツ語風の発音に勝手に改められたのです。

白秋はこれに「私の詩精神と表現とは冒涜されている」と激怒。「この日本の詩に、ドイツ生粋とやらでの巻舌などで横合から巻かれてなるものか」などと「東京朝日新聞」への寄稿で公然と批判を展開しました。

このように憤激するぐらい、白秋は、時局的な歌にも真剣に取り組んでいたのでした。

 

なお、東大の応援歌「青空と」は、もともと東京帝国大学の校歌として依頼されたのですが、学内の手続き不備などで、運動会歌に格下げされてしまったそうです。これに白秋は立腹していたとの指摘があります。

「青空と」は、歌詞の一部をあらため(「帝国の学府」→「栄光の学府」)、戦後の東大でも応援歌として使われました。2004年に校歌しようとの動きも起こりましたが、最終的に断念されました。

もし白秋が今日生きていれば、この扱いに癇癪を起こして、赤門に『鏡花全集』を投げつけにいったかもしれません。

以上、東京六大学の校歌や応援歌に関わったひとびとについてわずかながら紹介しました。このようなエピソードを知っていれば、ふだん気にかけない校歌・社歌・団体歌などについても少し興味が持てるのではないでしょうか。

文部省の研究

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