マツコ・デラックスを現代の「最強神」と呼ぶべき、深淵なる理由

祭礼と女装の歴史にみる「双性原理」
三橋 順子 プロフィール

ヤマトタケルも犬坂毛野も女装して強くなった

なぜ、女装すると効果が高まるのだろう。そこで思い当たるのが、女装するとパワフルになるという現象だ。

まず、日本神話の建国の英雄ヤマトタケルの話。

景行天皇の皇子である小碓命(おうすのみこと)は、父に疎まれて九州の豪族、熊曾建(くまそたける)兄弟の討伐を命じられる。たった1人で。無茶ぶりだ。小碓命はヤマトをあとにする前に叔母の倭比売命(やまとひめのみこと)の衣装一式をたまわって九州に旅立つ。

熊曾建の館の新築祝いの日、結っていた鬟(みずら=男性の髪形)を解いて梳(くしけず)り、女性の髪形である垂れ髪にし、叔母の衣装を身につけて少女の姿となり、奉仕の女性たちに交じって館に入りこむ。熊襲建兄弟は、鄙(ひな)には稀な美少女に目を止め、兄弟の間に座らせ寵愛する。

宴もたけなわの頃、まず兄がベッドルームに少女を連れ込む。小碓命は剣を抜き(どこに剣を隠していたのだろう?)、まず兄を刺し殺し、さらに逃げようとする弟を捕まえて剣を尻から刺し通す。弟タケルはいまわの際に小碓命に「タケル」の名を献上する。

ちなみに、わざわざ剣を弟タケルの尻に刺したのは、自分が兄タケルにされた?ことの仕返しだろう。

九州一の強者(つわもの)の兄弟を、16歳の女装の美少年がほとんど瞬殺してしまう。その超人的なパワーは、いったいどこから来たのだろう。

実は、『古事記』や『日本書紀』に描かれたヤマトタケル、女装していないときはそんなに強くない。けっこう苦戦している。最期は伊吹山の神と闘って敗れ、それが原因で命を落としてしまう。ヤマトタケルが超絶的に強かったのは女装の少年のときなのだ。

加佐登神社(三重県鈴鹿市)のヤマトタケルを描いた絵馬。少女の姿の小碓命が左手だけで弟タケルを捕まえたシーン。右手の剣はすでに兄タケルの血にまみれている。photo by Junko Mitsuhashi

次は、江戸時代後期の大ベストセラー長編小説、瀧澤馬琴『南総里見八犬伝』。
八犬士の中で最も華々しい活躍をする犬坂毛野は、女田楽の美少女スター「旦開野(あさけの)」として登場し、「対牛楼の戦」では一族の仇(あだ)馬加大記(まくわりだいき)一党を単身で殺戮しまくる。

ここでも超絶的なパワーを発揮する血まみれの女装の美少年というモチーフが繰り返される。

歌川国芳『曲亭翁精著八犬士随一 犬坂毛野』千葉県館山市南総里見八犬伝デジタル美術館

どうも、少なくとも前近代の日本では、男性が女装すると、弱々しくなるのではなく、逆にパワフルになるようなのだ。

女装の祭礼から導かれた「女装してやった方が、効力がある」と併せて考えると、女装することで通常とは異なる力が授かるという考え方があったように思われる。私はこれを「双性力」と呼ぶことにした。