福祉など不要、お金を直接配ればいい! 世界を救う最も簡単な方法

これは夢物語ではない
『隷属なき道』日本語版編集部

確かに、このベーシックインカム制度が導入されれば、日本の生活保護制度をめぐる様々な問題は一挙に解決するだろう。

日本の生活保護の場合、常に左派と右派の論戦の焦点になるのは不正受給の問題だが、これは、行政側が審査をして認定するという作業があるために生じる問題だ。小田原市の職員が「保護舐めんな!」とプリントされたジャンパーを揃いで作って、生活保護家庭を訪問していたような問題もなくなる。

そもそも職員がこうしたジャンパーを作ってしまうのは、国、自治体の「生活保護の適正化」という支給総額枠の圧力があるからだ。

偉大なアイデアは必ず社会を変える

ルトガー・ブレグマンという知性は、オランダという国の背景を抜きにして考えることはできない。

ルトガー・ブレグマンルトガー・ブレグマン 1988年生まれ、オランダ出身の歴史家、ジャーナリスト〔PHOTO〕Maartje ter Horst

オランダは、労働とインターネットの分野でフロンティアを切り開いてきた。

労働の分野では、1982年のワッセナー合意から始まる労働環境の先進化が有名だ。失業対策としてのワークシェアリングから始まったこの改革は、1996年には正規雇用者と非正規雇用者の賃金について同一労働同一賃金を定めた。

その結果、失業率は、1983年の14%から、2001年の2.4%まで縮小した。労働分配率が効率的になった結果、企業収益も改善、国際競争力もつき、投資が促進された。

このオランダモデルの成功は、本書でブレグマンが説く、1日3時間労働で残りの時間を人生にとって本当に有意義なものに使うという主張の背景になっているだろう。

オランダは世界でもインターネット普及がいち早く進んだ国のひとつで、ブレグマンの所属する「デ・コレスポンデント」というプラットフォームは、そのオランダならではのモデルだ。2013年に数人のジャーナリストたちがわずか8日間で、100万ユーロ(約1億3000万円)をクラウドファンディングで集めて始められたものだ。

 

そのスタンスは同ウェブサイトによれば、以下のとおり。

1、広告収入に一切頼らない。1年60ユーロの購読料収入で運営する。
2、従来の客観報道はやめる。書き手の怒り、疑問、喜びが素直に出た記事を出す。
3、日々のニュースを追うのではなく深い背景を抉るストーリーを追う。

ブレグマンは、オランダのユトレヒト大学(2014年の学術ランキング、欧州第10位)で歴史学を学んだが、「デ・コレスポンデント」に参加してからは、そうした読書歴を背景に、自由に取材をし、本書で綴るような現代社会の様々な矛盾を解決する方策の提案記事を書いてきた。

それが話題となり、「デ・コレスポンデント」初の書籍として出版したのが2014年のオランダ語版、そしてアマゾンのプリントオンデマンドを利用して出版したのが、2016年の英語版だった。

ちなみに最初のオランダ語版のタイトルは『ただでお金を配りましょう』。英語版プリントオンデマンドでタイトルは『現実主義者のための理想郷』と変わった。

日本語版は、ブレグマン本人と相談をした結果、ハイエクの『隷属への道』を本歌取りした『隷属なき道』となった。

本書の第10章で、ブレグマンは、社会主義とケインジアン全盛の時代に、自由市場が解決するという新自由主義のアイデアの力を信じたフリードリヒ・ハイエクを高く評価しているが、2017年の『隷属なき道』は機械(=AI)に隷属するのではなく、本当に意味のある人生を人々が生きるという意味を込めている。

ブレグマンは本書の出版を記念してオランダ大使館の招きで、2017年の5月14日から20日まで日本に滞在。慶應義塾大学での講義の他、様々なメディアのインタビューをこなした。

週15時間労働、ベーシックインカム、そして国境のない世界」。

いずれも、夢物語としか聞こえないという批判と無視の沈黙の中で、ブレグマンは言う。

奴隷制度の廃止、女性参政権、同性婚……いずれも、当時主張する人々は狂人と見られていた、と。何度も、何度も失敗しながらも、偉大なアイデアは必ず社会を変えるのだ、と。

隷属なき道
ルトガー・ブレグマン 1988年生まれ、オランダ出身の歴史家、ジャーナリスト。ユトレヒト大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で歴史学を専攻。広告収入に一切頼らない先駆的なジャーナリストプラットフォーム「デ・コレスポンデント(De Correspondent)」の創立メンバー。日々のニュースではなく、その背景を深く追うことをコンセプトとしており、5万人以上の購読者収入で運営されている。『隷属なき道』はオランダで原書が2014年に「デ・コレスポンデント」から出版されると国内でベストセラーに。2016年にAmazonの自費出版サービスを通じて英語版を出版したところ、大手リテラリー・エージェントの目に留まり、日本を含めて20ヵ国での出版が決定した。