坂口杏里に教えたい…母・坂口良子「アイドル女優時代」の圧倒的魅力

忘れられた70年代の彼女
堀井 憲一郎 プロフィール

そのあとも坂口良子の主演は続く。

1974年9月から『家なき子』、続いて1975年4月から『幸福ゆき』に主演した。どちらも30分ドラマで、ずいぶん暗かった。

『幸福ゆき』は北海道に実際にあった国鉄の「幸福駅」が世間で話題になっていたので、それをモチーフにした(不幸な主人公が幸福を目指すという)ドラマだった。

それと同時に『俺たちの勲章』にも出演していた(1975年の4月〜9月)。これは松田優作と中村雅俊の青春刑事ドラマである。松田優作がめちゃくちゃかっこよかった。坂口良子は、松田と中村が所属する課の事務係である。出張費の精算などをする係。

坂口良子に沿って見ていたドラマの中では、この作品にもっとも熱狂した。青春友情ドラマだった。

ひたすら松田優作がかっこよかった。後年、このドラマを見たとき、松田優作のセリフを私はほぼ全部覚えていた。よほど真剣に見ていたんだろう。

この少し前、萩原健一と水谷豊のドラマ『傷だらけの天使』の第24話『渡辺綱に小指の思い出を』に坂口良子はゲスト出演していた(1975年3月)。この話には胸を打たれた。切ないストーリーで、坂口良子は、田舎っぽい切ない少女役がとても似合っていた。

1970年代の彼女はとても切ない存在だったのだ。ある種のアイドル的な女優だった10代の坂口良子は、あまり前に出ないで少し引いたところでじっとこちらを見つめている、という役が似合っていた。

その姿に心つかまれていた。坂口良子は、見ているものをとても切ない気分にさせる存在だったのだ。そこが、彼女の圧倒的な魅力だった。池中玄太以降には見られない坂口良子の香りである。

 

彼女の「本質」

1975年10月から『前略おふくろ様』に出演する。

坂口良子20歳。

いまおもうと、この『前略おふくろ様』第1シリーズのかすみ役に、坂口良子の魅力がすべて詰まっているように感じる。

おとなしそうなのに、主人公の萩原健一に迫ってきて、恋人になってしまう。切なさを含みながら、芯の強さが出ていた。

芯の強さは坂口良子という人間の本質ではないだろうか。20代後半からはそちらが強く出てきて、アイドルから女優へときちんと変わっていく。その少し前、まだ芯の強さがかわいらしく見えるこの時代の坂口良子が、私はもっとも好きである。

1年後に『前略おふくろ様』第2シリーズが放映されるが、ここでは主人公と別れて、次の交際相手がいた。二人きりの恋人どうしの合図を、次の恋人にも使っていて、ショーケンがショックを受けるシーンがあったが、見ている私も衝撃だった(脚本の倉本聰の腕である)。だからあまりこの第2シリーズは熱心に見ていない。ショーケンに感情移入して見るドラマだったから、しかたがない。

70年代の坂口良子の代表作は、主演ではないながらこの『前略おふくろ様(第1シリーズ)』だと私はおもう。

ただ個人的にもっと忘れられないドラマがある。

『グッドバイママ』。

〔PHOTO〕TBSチャンネルより

1976年7月からの1クールドラマだった(TBS系列、木曜9時の1時間ドラマ)。