村田諒太に聞いておきたかった「あのこと」、返ってきた「本音」

正直、物足りなさを感じていたから
森合 正範 プロフィール

「この世界戦で終わりでは困るんです」

――一般的に、金メダリストの村田選手はエリートとみられている。どうすれば共感されますか?

「僕も上げ下げがありますから。評価の高いエリートとは考えていなくて、むしろエリートが一度挫折して這い上がってきている感じかなと思っています。あとね、精神面というか、ボクシングというのは恐怖に対して立ち向かう。分かりやすいじゃないですか。殴り殴られ、勝ち負けがある。

結局、負けるって何を失うのかというと、殴られるのが怖いのではなく、自分という存在を失うこと。僕で言うと、負けたら金メダリストで全勝という価値が世間の中から失われる。要するに世間と戦うわけですよ。評価というのは」

――殴り殴られるより、世間の評価の方が怖いと。

「みんなそっちの方が怖い。仮に誰もいないところでマイク・タイソンと殴りあっても別に怖くない。人は自分のアイデンティティーの崩壊が怖い。例えば、仕事で失敗したことを上司に報告したくない。それは失敗したことが申し訳ないというより、自分のアイデンティティーの崩壊が怖いわけですよ。

ボクシングはそういうところを怖がらずに立ち向かっていく。逃げ道がない。共感されるとしたら、そこでしょうね」

 

ミドル級で日本人王者となれば、竹原慎二以来22年ぶり。金メダリストで世界王者となれば日本人初の快挙となる。偉業か、それともアイデンティティーの崩壊か。

「プロとアマの大きな違いは、アマは大会の出場も引退も自分で決められる。五輪というゴールも設定しやすい。プロはゴールがないくせに、すぐに終わりが来る。世界タイトルで勝てばスタート、負けたら終わりかもしれないんです」

プロデビュー戦の時に抱いた「村田なら、これまで見たことのない景色をみさせてくれる」という思い。あの期待感はいまもなお変わらない。むしろ、この一戦を前に大きく膨らんでいる。世界王座をとって、さらなる夢を聞かせてほしい。「だから、この世界戦で終わりでは困るんです」。こう伝えると、村田は凜々しい顔でうなずいた。

石井慧と村田諒太、五輪金メダリストの「その後」を考える
スポーツコミュニケーションズ
近藤隆夫