今年の1月末、オーストリアのウィーン空港の身障者用トイレに、拳銃が隠されているのが見つかった(詳しい隠し場所は発表されていない)。そこで警察は、誰かがこの拳銃を取りに来るに違いないと見て、罠を仕掛けた。
2月3日、トイレに現れたのは、ドイツ軍の将校、フランコ・A(28歳)だった。隠し場所を開けた途端、Aはあっという間に大勢の警官に取り囲まれた。
Aは取り調べに対して、「ウィーンで酔っ払って、草むらで用を足そうとしたら、偶然、拳銃を見つけた。それをジャケットに入れたまま、翌日空港まで来てしまったため、慌ててトイレに隠した」と説明したという。小学生でも信じないだろう。
オーストリア警察がドイツ当局にAの指紋照合を求めたところ、すぐに一致する指紋が見つかった。ところが奇妙なことに、それは将校フランコ・Aではなく、一人のシリア難民のものだった。
フランコ・Aの件は、そのあとドイツ警察に引き継がれ、俗に言う「泳がせる」作戦が取られた。以後、Aの行動は厳重に見張られ、電話は盗聴された。その結果まもなく、Aが極右思想の持ち主で、重大テロを計画している疑いが強まってきた。
4月26日、ついにAが逮捕された。その翌日、事件はようやく公になったが、報道内容は驚くべきものだった。
Aは北フランスにあるドイツ軍とフランス軍の合同旅団、狙撃大隊291の所属だったが、そのAが2015年12月、ダーヴィッド・ベンジャミンという偽名で難民申請をしたという。
その架空の人物は1988年生まれで、ダマスカス出身の果物商の息子。キリスト教徒のため、「イスラム国」から迫害され、ドイツに逃げてきた。ただ、「ベンジャミン」はアラビア語ができず、申請はフランス語でなされた。
その結果、ベンジャミンはシリア難民として認められ、おまけに月400ユーロの手当と宿舎の部屋まで貰った。一方、将校Aはその後も何食わぬ顔で軍に勤務し続け、1年が過ぎても、誰も彼の二重生活を疑うことはなかった。