日本経済を食い尽くす、医療・福祉への「雇用一極集中」

社会の衰退を食い止めるには
竹中 正治 プロフィール

実際、現代の民主主義の政治体制の下では、経済がゼロサムになるとさまざまな社会経済問題の解決が非常に困難になる。

なぜか。

民主主義的な政治体制は、拡大する所得の分配の下では比較的円滑に機能する。ところがゼロ成長下で経済的コスト分配の問題が生じると、全ての有権者は自分がコストを負うことを嫌い、他者がコストを負うことを期待する。負担の分担を裁断する絶対権力も存在しないので機能不全に陥り易いからだ。

これはかつてレスター・サロー氏が世界的なベストセラー『ゼロサム社会』(1980年)で説いたことだ。

 

イノベーションで開ける将来の豊かさ

そうすると残る選択肢は、医療・福祉分野を含め産業全てで労働生産性を引き上げ、経済成長率を押し上げるしかない。

製造業でのロボット化はこれまで急速に進み、今日の工場では驚くほど少ない労働者数で莫大かつ多様な生産が実現されている。この点では日本は産業用ロボットの保有でも生産でも世界トップクラスだ。さらに進化して無人化工場も展望できるだろう。

今後の不可避かつ挑戦的な課題は、サービス産業部門のAI導入、ロボット化の普及で労働力の制約を突破することだ。

この点で私が最も期待しているイノベーションは自動運転カー(ロボットカー)の実用化、普及である。タクシー、バス、トラック、宅配便カーなどの運転業務がロボット化すれば、莫大な労働力を他分野に向けることができる。

人間と会話するAI搭載の完全ロボットカーが、今の自動車とあまり違わない価格で供給されるようになれば、専属運転手付き自動車で送り迎えされるという今日では超富裕層や大組織のトップしか享受できない贅沢が一般大衆化することになる。なんとわくわくするような近未来ではないか。 

また最近、大手コンビニエンス・ストア5社が、経済産業省と共同でICタグを商品に付けることで自動会計するセルフレジを2025年までに国内全店舗に導入する計画を発表した。ICタグのコストのさらなる引き下げることが必要だろうが、コンビニだけでなく小売業界の労働力の省力化が大規模に進むだろう。

需要がまだまだ増加する高齢者の医療や介護サービスは、機械化が難しい分野だと一般に考えられている。しかし介護対象の高齢者を見守り(モニタリング)、話しかけ、必要に応じて介護者に連絡するロボットなどが実用化され始めている。

もちろんイノベーションによる産業構造の変化に対応するための労働力の移動、再訓練などの課題を私は過小評価するつもりはない。しかしそれは18~19世紀の古典的な産業革命以来、産業構造の変化に応じていつの時代にもあった問題だ。

人間社会は産業、企業のスクラップ&ビルドと人間の教育、再訓練によって対応してきた。

イノベーションに積極的な適応をする企業、事業は興隆し、そうでないものは衰亡する。この創造的破壊を厭うならば社会全体の衰亡が起こるということになる。