日本経済を食い尽くす、医療・福祉への「雇用一極集中」

社会の衰退を食い止めるには
竹中 正治 プロフィール

高度経済成長の逆現象が起きている

GDPで計測される経済成長率は、1人当たり労働者が生み出す付加価値の増加率(労働生産性の上昇率)と労働人口増減率の合計である。今後、2030年まで日本の労働人口(15~64歳人口)は年率マイナス0.5%で減少すると見込まれている。したがって労働生産性の上昇率が変わらなければ、経済成長率は0.5%押し下げられる。

しかし問題はその程度で済まないことにある。

この点に関連して吉川洋・東京大学名誉教授(立正大学教授)は次のように指摘している。

1955年から70年までの高度成長期に労働力人口の成長率は1.3%に過ぎなかったが、1人当たりの労働者が生産する付加価値の増加額は8.3%と高く、その結果年平均の実質経済成長率は9.6%の高成長だった。すなわち労働生産性を上げれば、労働力人口の減少による負の効果を克服できると語っている(吉川洋『人口と日本経済』中公新書、2016年)。

 

しかし吉川教授自身が同著の中で指摘している通り、高度成長期の労働生産性の高い上昇は技術革新によってもたらされたと同時に、その技術革新の恩恵が最も大きかった製造業分野へ、相対的に労働生産性の低かった農業分野から、大規模な労働力の移動が起きたことによってもたらされた部分も大きいのだ。

具体的な数字で言うと、1953年から70年までの期間に農林業では645万人就業者が減少し、製造業では657万人増加している。この人口移動が当時の高度成長を可能にした。

しかも農村から都市に移動した人口は、都市型の生活を始めるために住宅や各種家電製品の新需要層にもなり、需要、生産、設備投資が連鎖しながら拡大した。これは途上国一般にもいえることで、いわゆる「産業化のテイクオフ」が起こり、製造業分野が拡大し始めると低生産性の農業から製造業への労働人口の大規模なシフトが起こり、経済全体の高成長が実現されるのである。

ところが2000年代以降の日本では、すでに見た通り事態は逆である。

今日でもロボット化で急速な労働生産性の上昇を遂げている製造業分野から、相対的に労働集約的で労働生産性の伸び率も低い医療・福祉分野に数百万人規模の労働力が移動しているのだ。

ここに高齢化する日本経済が直面している事態の深刻さがある。

今や日本の総医療費は年間約40兆円を超え、介護費は約10兆円、合計50兆円余となり、GDPの10%に達する規模となった。

この点、内閣府のレポートも「労働生産性を見ると、医療・福祉産業は2000年代平均で1%に満たない生産性上昇となっており、産業平均を下回る」と指摘し、労働投入量の拡大に偏った同分野の拡大の成長の持続性に疑問を呈している(内閣府『年次経済財政報告』2011年度)。

経済成長の放棄は閉塞への道

ではどうすればよいのか。

ひとつの選択肢として「経済成長を諦めよう」「ゼロ成長で満足しよう」と語る人々もいる。そういう人々が「自分は将来にわたってこれ以上の所得を望まない」というのなら、それは個人の勝手だ。

しかし私を含め将来にわたって所得の増加を望む人々は多い。もしゼロ経済成長ならば、所得増を実現する人々の反対側に所得を減らす人々の発生が不可避となる。あるいは私以外の人が所得を増やすなら、私の所得は減ることになる。

私はそのようなゼロサム経済は望まないし、そう望まない人々がいる限り経済成長は不可避の要件だ。