東芝大失敗の研究 〜組織は「合理的に」失敗する

まるで旧日本軍と同じ…
菊澤 研宗 プロフィール

東芝に発生した不条理の構図

東芝のガダルカナル化は、10年ほど前から展開された半導体と原子力への選択と集中戦略にはじまる。東芝は、この戦略のもとに、2006年、約6400億円という多大な資金をつぎ込んで、強引に米国の原子力発電事業会社ウエスチングハウス(WH)を買収した。

専門家は、この買収額は割高だとみなし、批判的であった。こうした空気を読んで、買収後、東芝は2015年までに原子力発電事業の売上高を1兆円とする事業計画を公表した。しかし、その事業計画は予定通りには進まなかった。周知のように、リーマンショックが起き、さらに2011年には福島第1原子力発電所事故が発生したからである。

 

日本では、安倍政権のもとに、事故後も原発を再稼働することが大前提となっているが、米国の状況はまったく異なっていた。

原発事故後、米当局によって安全基準が厳格化され、その基準を満たすために原子力発電所の建設コストは一気に高まった。それゆえ、米国内ですでに建設中だった原発4基も、設計の変更が余儀なくされ、建設コストは大幅に増大、こうして、東芝が買収したWHは赤字に転落した。 

この時点で、東芝は原発事業が儲からない事業であることを明確に認識したに違いない。しかし、東芝は原発事業から撤退することなく、2015年12月、さらに原発事業の効率性を高めるために、機器から工事までの垂直的一貫体制を確立する必要があると考え、米国の原発建設会社「ストーン・アンド・ウェブスター」(S&W)を買収した。

ところが、この会社は700億円の負債を抱えていたのである。この大失敗によって、東芝はこれまで白物家電事業や医療機器事業を次々と手放し、まさにいま最大の収益源である半導体事業の売却に迫られているのである。

東芝が、原発事業に固執しなければ、現在のような悲惨な事態には陥らなかったのである。おそらく、東芝の経営陣も、ある程度、米国の状況を理解できていたはずである。しかし、なぜ方針を変更し、原発事業から撤退しなかったのだろうか。

東芝の経営陣が原発事業に固執し続けてきたのは、これまで述べてきたように、この事業に莫大な特殊な投資をしてきたからであり、もし原発事業から撤退すれば、その特殊な投資はすべて無駄になり、この事業をめぐる多くの利害関係者がお手上げ状態に陥るからである。それゆえ、原発事業を放棄する場合、彼らを説得する取引コストは膨大なものとなる。

特に、最大の利害関係者は日本政府であり、政府と手を組んできた東芝の経営陣である。安倍政権は、これまで原発ビジネスを「国策」として位置づけ、2016年の参議院選の公約として「インフラ輸出」を掲げた。その柱の1つが原発輸出だったのである。そして、この政府の成長戦略に深く関わってきたのが、東芝の経営陣なのである。

さらに、最近では、この利害関係者1人として雇用創出に強い関心をもつ米政府が新たに加わってきた。トランプ新政権は、もし東芝が原発事業から撤退し、WHを倒産させれば、最大3万6000人以上の雇用消失が発生することを懸念し、日本政府および東芝に事業継続に向けた協力を求めているのである。

このような利害関係者との膨大な取引コストを考慮し、合理的に損得計算すれば、議論の余地のない共通の結論に至ることになる。すなわち、東芝の経営陣にとっては撤退しない方が合理的だったのである。こうして、東芝の経営陣は、いまもガダルカナル戦での日本軍のように撤退できない状況にあるのだろう。このような状況のもとで、大本営が嘘の発表を行ったように、東芝もまた不正な会計報告を行い、ガダルカナル島で多くの将兵が無駄死にしたように、東芝でも多くの日本人従業員が解雇される可能性が高まってきているのである。

 

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