元国税査察官が明かす税金滞納処分の冷徹な現場

正直者がバカを見てはならない
上田二郎

マルサと徴収官の違い

ところで、国税徴収法142条に基づけば、徴収官はマルサ以上に強い権限を行使できるとしばしばいわれる。

「徴収職員は、滞納処分のため必要あるときは、滞納者の物又は住居その他の場所につき捜索することができる」

と定められているのだ。

自宅などの捜索には、警察や地検特捜部でさえ、裁判官の許可(令状請求)が必要なのだが、徴収官にはそれが必要ない。

それだけ強い権限がなければ、「国家の米びつ」を脅かす滞納者に対峙できないということだ。

しかし、「マルサ以上に強い権限」という見方は、いささか違う。国税にマルサ以上に強い権限を持つ部隊は存在しない。

 

マルサの強制調査は、脱税の嫌疑(疑いの段階)で行使できる強大な国家権力だ。しかも、ターゲットに気づかれることなく、いきなり強制調査に踏み込む姿から「ステルス潜水艦」と呼ぶ者もいる。

警察の捜査は犯罪が実行されて(実際に犯罪があって)から、その証拠を集めるために行われる一方、嫌疑の段階で捜査権限が与えられるのは検察とマルサくらいだろう。

国会で審議中のテロ等準備罪も、犯罪が行われる前に捜査権限が与えられるという点で大きな波紋を広げている。

このマルサの強制調査に対して、徴収部がするのは、滞納者を根気よく説得して完納させる地味な仕事だ。滞納者に接触し、納付計画を出させ、根気よく待ち、納付が遅れれば、また説得することを繰り返す。強制執行は最終手段だ。

しかし、滞納者の中には納めるカネがあるにもかかわらず、資産を隠す悪質な者もいる。自宅に訪問した時、もし貴金属などを見つけても、令状を取っていたのでは差し押さえが間に合わないため、国税徴収法142条が定められている。

マルサや課税部は調査で税金を賦課すると一件落着となるのだが、賦課した税金を納めさせてはじめて、国家の米びつが潤うことになる。

マルサや課税部が脱税を見つけて華々しくマスコミに発表する一方、彼らが賦課した税金が支払われずに滞納されれば、滞納額増加のかどで、徴収部がマスコミから叩かれる。

つまり、国税内部に正反対の立場の部隊が存在するということなのだ。

本当に困窮した人の悲哀

現在の法人税の実効税率は29.9%。もし、脱税が見つかって重加算税(35%)や延滞税が賦課されても、隠したカネのすべてを持っていかれる訳ではない。脱税者の資金がショートしてしまう主な原因は、それまでに遊興費などで使ってしまうことだ。

税務調査は最大7年間遡る。つまり、調子に乗って使ってしまった後に脱税が暴かれて、過去の税金の清算を迫られるのだ。