どこの病院も「老医者」をリタイアさせることに苦労している…

医師免許の返納義務はないけれど
週刊現代 プロフィール

実際のところ、「手術はリタイアして、外来だけやらせたほうがいい」と周囲からも思われている医者は多い。

フリーの麻酔医、筒井冨美氏はこう指摘する。

「どこの病院も、『おじいちゃん医者』のプライドを傷つけずにセミリタイアさせることに苦労しています。『正社員』である常勤講師を本人の同意なしに解雇したり、外科部長などのポストから降格させたりすることはコンプライアンス上非常に困難です。特に公立病院はこの問題に悩んでいますね」

前出・中原氏も次のように語る。

「引退の潮時というのは、つまるところ車の免許の返上と同じようなものです。客としてタクシーに乗るのなら、80歳過ぎの運転手の車には乗りたくないと思うけれど、いざ自分が運転するとなると、近場くらいなら行けると思ってしまう。

患者が診察を受けながら『こんなお年寄りで大丈夫なのか』と不安に思う一方で、医者は『俺はまだまだやれる』と思っているのです」

 

患者の名前が思い出せない

なかには、なかなか自らの医者人生の引き際を見つけられないことを、自分で問題視している医者もいる。

「医者も人間ですからね、年を重ねるたびにあちこちガタがきてしまいますよ。些細なことかもしれませんが、私自身、夕方まで診療すると疲れ切って動けなくなったり、カルテの位置はどこだろう、とわからなくなることが増えてきたりします。

時には目の前にいる患者の名前が思い出せなくなることもある。これが重大な医療ミスに繋がる前に引き際を決めなければいけないとは思っています。

ただ、私が開業した病院を子供は『継がない』と言っていて、この病院をどうするかとか、患者さんはどうなるのかとか、いろいろなことを考えるうちになかなか『店じまい』できなくなってしまいましたね」(東京都内の60代開業医)

考えてみれば、医者はその道を志してからずっと、医学の世界に身を投じてきたのだ。仕事から離れ、医者以外の人生を歩んだほうがいい、といきなり言われても、途方に暮れてしまうのも無理はない。

「なにわのトラブルバスター」として知られる大阪府保険医協会の尾内康彦氏はこう語る。

「老いを感じれば、第一線から退くのは当たり前です。でも、ベテランの医者だからこそできることもある。

たとえば、若い医者が行きたがらない、医師不足にあえぐ過疎地であえて開業する。カネのためではなく、地域の人のために貢献するというセカンドライフを送るのも意義があると思います」

医者は様々な「老い」と闘い続けながらも、引き際に悩んでいるのだ。

「週刊現代」2017年5月20日号より