リオ五輪銅メダリスト・羽根田卓也「闘争心、そのスイッチの入れ方」

日本中のメディアが注目する男の本音
岡田 真理

日本のスポーツ界では休むことが軽んじられる傾向がある。しかし、羽根田選手は「休みを入れずに上がり続けることは不可能。休むことで伸びしろがさらに増えていく」と言う。コーチからも「積極的に休むことは大切」と指導を受け、意識的に休んで効果的に鍛えることを実践するようになったという。

また、大学・大学院で学んだ理論を役立てる一方で、競技中にはアスリートとしての感性も大切にしている。

「カヌースラロームは複雑な流れの中で行う競技で、机上の理論だけでは測れない要素が大いにあります。体がこう動くから速く漕げるとか、ベンチプレスがこれだけ挙げられるから回転が速くなるとか、そういう単純なものではありません。最後に頼るのは、これまで培ってきた自分の感性です」

自然のコースでも人工のコースでも、秒単位で変わる波の周期に対応しなくてはならないのが、まさにカヌーの難しさだ。「あの選手は波に助けられた」「あの選手はレースのタイミングが悪かった」ということも多々あるという。

 

「それでも、どんな流れでも対応できる技術、波の変化を自分の味方にできる技術を日頃の練習で培っていくわけです。いざという時しっかり対応できるのだろうかという不安は常にありますよ。だから練習をするわけです。それは、カヌー選手にとって永遠のテーマですから」

競技を広める存在になりたい

18歳で単身スロバキアに渡り、言葉は独学で覚えた。数年前までは日本人の友達も作らず、ひたすら練習に専念。北京五輪で予選14位、ロンドン五輪で7位入賞とステップを重ね、リオ五輪でついに銅メダルを獲得。日本を離れた後しばらく仕送りしてくれていた父・邦彦さんの首に、ようやくメダルを掛けてあげることができた。

リオ五輪後は数えきれないほどのメディアに出演。これまでは家族や関係者しかいなかった大会会場にも、全国からファンが駆けつけるようになった。

「ほとんどのスポーツがカヌーより華やかですよね。今までそこにジェラシーがなかったと言えばウソになる。でも、競技転向してそこで花を咲かせることは考えなかったです。俺がカヌーにスポットライトを当てるんだと高校時代から思っていましたから。メディア発信もカヌーを広めるための大切な仕事だと思ってやっています」

2020年に日本初の人工コースが完成するのを機に、日本国民にとってカヌーがさらに親しみを持てるスポーツになる可能性を、羽根田選手も感じている。

「爆発的に火がつくということはないと思います。でも、人工コースがあれば東京五輪が終わってもカヌー体験やラフティングができると思うので、みなさんがこの競技を知ってくれるきっかけにはなるかなと。

カヌーはレジャーとしても素晴らしいと思うんですよね。先ほど休むことの重要性について話しましたけど、みなさんのオフに息抜きとしてやってもらうと、アウトドアスポーツならではの気持ちよさを実感してもらえると思います」

願いは、競技カヌーとレジャーカヌーともに、もっと存在を知ってもらうこと。ただ、「マイナー競技の場合、地道な普及活動には限度がある」と羽根田選手は語る。

「連盟や団体が普及活動を行うことももちろん大事ですが、一人のスター選手が生まれることがいちばん普及効果がありますよね。スター選手になるためには成績は大前提ですけど、成績以外の要素もあると思うんです。自分は、そういう存在にならなくてはいけない。その使命感は持っているつもりです」