なぜ報われない恋ほど魅了されるのか~恋愛作家のお気に入りの10冊

こんな恋愛、あんな恋愛、全部アリ
野中 柊 プロフィール

チママンダ・アディーチェの『半分のぼった黄色い太陽』も大好きな作品。部族間の殺戮、飢餓が国際的な問題になったナイジェリアの内戦、ビアフラ戦争を背景にして、人種、国籍が異なる3人の男女の視点から語られる大長編小説です。

双子の姉妹、オランナとカイネネが気高く知性的で、すっかり魅了されました。この二人の恋愛の流儀が、ほんとに素敵なんですよ。登場人物たちの多くはインテリ層で、きわめて理性的な筆致で書かれている作品なのですが、日常的に使われている呪術についても触れられていて、はっとさせられました。

わたしたちが孤児だったころ』は、おそらく恋愛小説とはいえないのだけれど、作中の恋愛のエピソードと、主人公が心惹かれた女性・サラがとても魅力的だったので。

10歳のときに両親が失踪してしまったため、孤児になった主人公は、両親の行方を探るために探偵となり、数々の難事件を解決し、名声を得ていきます。

カズオ・イシグロの他の作品同様に、人間の「悪意」が細やかに描かれています。またストーリーの本筋からはずれたエピソードが詳しく書き込まれている一方で、重要な場面はあえてわずかな記述ですませ、読者の想像を喚起する空白を設けていたりもする。そのバランスが絶妙で、両親の失踪の真相が解き明かされる終盤はページをめくる手が震えました。

(構成/朝山実)

 

野中柊さんのベスト10冊

第1位『藤壺
瀬戸内寂聴著 講談社文庫 381円
『源氏物語』からの創作スピンオフ。「紫式部があえて書かずにいた禁断の愛が美しく描かれていて、堪能しました」

第2位『コレラの時代の愛
G・ガルシア=マルケス著 木村榮一訳 新潮社 3000円
「半世紀以上の歳月を経て、老いてなお初恋を成就しようとする二人。大人の恋の力強さに励まされます」

第3位『情事の終り
グレアム・グリーン著 上岡伸雄訳 新潮文庫 670円
「神とは、人とは何かと問いかけてくる。映画化もされていますが、素晴らしいのは映像にできない心理描写です」

第4位『半分のぼった黄色い太陽
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ著 くぼたのぞみ訳 河出書房新社 2600円
ビアフラ戦時下の群像長編。「主人公の姉妹の生き方、恋の流儀が凛として魅力的」

第5位『初夜
イアン・マキューアン著 村松潔訳 新潮社 1700円
「新婚の二人が愛し合いながらも、無知と不器用さゆえに破綻するまでを細やかに描く」

第6位『エル・スール
A・ガルシア=モラレス著 野谷文昭・熊倉靖子訳 インスクリプト 1800円
「自殺した父の恋人に会いに行く少女。『あなた』と父に呼びかける文体が印象的」

第7位『いつも手遅れ
アントニオ・タブッキ著 和田忠彦訳 河出書房新社 2400円
「差出人不詳の18通の書簡体小説。詩の断片のように、比喩やフレーズが美しい」

第8位『わたしたちが孤児だったころ
カズオ・イシグロ著 入江真佐子訳 ハヤカワepi文庫 940円
両親が相次いで謎の失踪。孤児となり探偵を志した息子は衝撃の真相を知る……

第9位『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹
ジェフリー・ユージェニデス著 佐々田雅子訳 ハヤカワepi文庫 780円
「ある姉妹に憧れる『ぼくら』の視点で回想。思春期の少女たちの危うい存在感を描写」

第10位『日々の泡
ボリス・ヴィアン著 曾根元吉訳 新潮文庫 590円
パリの若者たちを描いた青春小説。「失われゆくイノセンスが胸を打つ忘れがたい作品」

週刊現代』2017年5月20日号より