初公開!裁判官の「出世とカネ」こうなっている

エリートの知られざる「生活」と「人生」 
岩瀬 達哉 プロフィール

裁判長が、上司の前で萎縮し、最高裁に睨まれることを恐れている「官僚」だとすれば、若い裁判官や、裁判官志望の修習生が、その雰囲気から学ばないことなどありえないだろう。

実際、この研究会の速記録さえ、外部に漏れることを恐れ、一般裁判官には配布されなかった。彼らには、A4判16ページに編集されたダイジェスト版が配られただけだ。せっかくの成果も、じゅうぶん生かされることなく終わっていたのである。

憲法で保障されているはずの「裁判官の独立」と「身分保障」は、外部からの干渉には強くても、内部を支配する組織の論理の前では、ほとんど意味をなしていないと言えそうだ。

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10年目で年収1000万円

一般企業や行政官庁ともちがって、裁判官の人事評価は、任官から20年ほどは、まったくと言っていいほど給与に反映されない。長期病欠などの特別の事情がない限り、仕事ができる、できないに関係なく、一律に昇給する仕組みをとっている。

新任判事補の基本給は、俸給表(ページ末参照)で見る限り月額約23万円で、一般企業の大卒社員の平均初任給約20万円とさほどかわらない。

しかし彼らには、初任給調整手当、地域手当、勤勉手当など、民間企業にはない多数の手当が付くうえ、1年目から4・3ヵ月のボーナスが支給される。それらを合わせると年収は、約600万円となるのである。

そして任官から10年が経過すると、判事補から判事に昇格。ここでようやく一人前の裁判官と認定され、年収は1000万円の大台を超える。次の節目は、約18年目の「判事4号俸」への昇給で、年収は約1700万円となる。しかし一律昇給は、ここまでで打ち止めとなる。

その上の「判事3号俸」のカベは高く、「判事4号俸」のまま据え置かれ、定年を迎える裁判官も少なくない。

要するに、過去20年間の勤務評価が、この時、一気に下されるわけである。

「3号俸」に昇給すると、年収は約2000万円となり、ほぼ同時に地裁の裁判長に指名される。中央官庁でいえば、局長級の給与にあたり、納得感と達成感が伴う処遇だ。

「だから大半の裁判官は上目遣いで、上司に嫌われないよう、無難な判決を書くわけです。上司と衝突するような判決を書けば、3号に上げてもらえなくなりますから」

こう前置きして語るのは、ある裁判官OB(63歳)だ。

 

「われわれは、普通、20代半ばで裁判官になって、定年まで勤めるので、約40年という時間を裁判所という閉鎖された社会で過ごすわけです。

その社会の中で生きていくわけだから、誰もが、楽しく気持ちよく仕事をしたい。住民訴訟などで国を負けさせたりすると、偏向していると後ろ指をさされ、変わり者だと白眼視される。挙げ句、同期より処遇で遅れるというのは、さすがに辛い。

しかも遠くへ飛ばされるかもしれない。家族を連れていけないとなると、単身赴任ですから、それはかなわんわけです」

具体的な事件の処理については、誰からも指示を受けることはない。しかし疎外感や、任地のことを考えると、公平無私の立場から判断することよりも、自主規制し、適当なところで妥協した判断を下しておこうと考えるのだという。

要するに、彼らもまた、その崇高な使命感とは別に、一市民としての悩みや弱さを抱え持つ生身の人間なのである。