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ウイスキーは「永遠に解けない謎」があるからやめられない

タリスカー・ゴールデンアワー第2回(後編)

松木: ノンエイジステイトメントのイメージで飲むと、ずいぶんこなれていますね。熟成の長いものも入っているのでしょうか?

ボブ: 詳細は企業秘密ですが、例えばキャラメルに塩をちょっと入れることで甘さを引き立たせるというような感じで、若いものから古いものまで、純粋に樽ごとの個性を見極めたうえで、マスターブレンダ―が絶妙なブレンディングを施しています。

松木: そうなんですか。どちらかというと、ノンエイジステイトメントのものって、若い原酒を調整するために古酒を使っているんだと思っていたんですけど。

ボブ: 単純に若い樽を使うためにノンエイジのボトルをだしたわけではないんですよ。樽で熟成されている原酒は、それぞれ熟成のピークが違います。人と同じで、早熟なものもあれば、大器晩成のものもあります。エイジステイトメントがあると、それに満たない早熟な原酒は使えませんが、ノンエイジステイトメントなら年数にしばられず自由に原酒の個性を表現出来るんです。

シマジ: なるほどね。年数よりも味を重視しているわけですね。そうだ、いま発売中のウイスキー専門誌『Whisky Galore』で松木ドクターがテイスティングしていたマノックモア25年、ポートエレン37年、ブローラ38年、リンクウッド37年をほとんど同時期にボブとわたしもテイスティングしたんですよ。

松木ドクターは90点としていましたが、わたしはあのポートエレンには96点か97点はあげたいですね。

松木: それはシマジさんの思い入れがかなり加味されていると思いますね。シマジさんはポートエレンを15回目のリリースまで全部飲んできたんわけですよね。やっぱり16回目の37年もお求めになるんですか?

シマジ: ドキッ! じつはいま考え中なんです。

ボブ: 「美しいものは迷わず買え」のシマジさんにしては歯切れが悪いですね。

シマジ: ブローラ38年も素晴らしかったので、欲しいなと思って……。

ボブ: 「迷ったら二つとも買え」じゃなかったんですか?

シマジ: う、ヒノ、そういってくれるな。助けてくれ!

ヒノ: 身から出たサビとはこのことですよ。

松木: ところで、シマジさんにとっていちばん思い出深いシングルモルトはどんなものですか?

シマジ: よくぞ訊いてくれました。忘れもしない、マッカラン25年。1968年蒸留で、大きく赤文字で25と書かれたあのマッカランです。それは開高健先生が佐治敬三さんからせしめてきた貴重な1本でした。

ある日、開高先生から電話がかかってきて、やけに嬉しそうな声で「上モノが手に入ったから明日の午前中、うちに飲みにこいや」と誘われたんですね。開高先生が大酒飲みということは百も承知でしたから、急がないと先生1人で飲み切ってしまうだろうと思って、翌日、他の予定をキャンセルして茅ヶ崎まで飛んで行きました。

松木: お2人でぜんぶ飲み切ったんですか?

シマジ: もちろん。午前10時ごろから飲みはじめて午後3時過ぎには空になっていました。

ヒノ: して、そのお味は?

シマジ: まさにマイケル・ジャクソンが言うところの「シングルモルトのロールスロイス」でしたよ。溶けるようにスイスイ身体に入っていく感じでした。死ぬまでにもう一度あの味を体験してみたいものです。松木ドクターのコレクションのなかにはありませんか?

松木: 残念ながら……。

シマジ: 最後に松木先生にお訊きしたいんですが、800本の未開封のウイスキーは自分で飲むために買ったんですか?

松木: はい。ぼくも、シマジさんほどではありませんが、かなり開けて飲むほうなんですよ。それなりの数は持っていますけど、飾る趣味はありませんし、いずれすべて自分で飲むつもりでいます。

シマジ: わたしはどんなボトルでも、買うとすぐに開けて3杯は飲みます。それから担当編集者たちに飲んでもらっています。なにしろみんなが送ってくれる原稿料を元手に買っているんですからね。ちゃんと還元しなければバチがあたります。

松木: シマジさんは特別ですよ。

シマジ: オールド&レアなシングルモルトを買って飲まないで飾っているのは、素敵なフルボディの女性を服を着せたままベッドサイドに立たせておくようなものです。脱がせなきゃ失礼ですよ(笑)。

松木: でも逆の見方をすれば、いまシマジさんが1960年代のシングルモルトを飲めるのは、そういうただ飾っているだけのウイスキーラバーがたくさんいるおかげかもしれませんよ。

シマジ: なるほど。だからオールド&レアなボトルがいまでも存在しているのか! たしかに、わたしみたいに我慢が出来ない人間ばかりだったら、貴重な古いボトルはとっくにこの世からなくなっていますよね。

つまり吝嗇がウイスキー文化を後世に伝えている、と。わたしはそういう人たちに感謝しなければいけなかったんですね。今日は大変勉強になりました。

〈了〉

松木崇(まつき・たかし)
1980年生まれ。頭頸部外科医。ウイスキー専門誌『Whisky Galore』のテイスターを務める。学生時代にウイスキーの虜となり、2007年の第1回ウイスキープロフェッショナル試験に合格。2012年よりブログ「ストイックなドリンカーの日々」で自身のテイスティング記事を2000本以上公開。現在まで5000種類以上のモルトウイスキーのテイスティング経験があり、樽選定や品評会などにも携わる。
島地勝彦(しまじ・かつひこ)
1941年、東京都生まれ。青山学院大学卒業後、集英社に入社。『週刊プレイボーイ』『PLAYBOY』『Bart』の編集長を歴任した。柴田錬三郎、今東光、開高健などの人生相談を担当し、週刊プレイボーイを100万部雑誌に育て上げた名物編集長として知られる。広告担当取締役、集英社インターナショナル代表取締役を経て、2008年11月退任。現在は、コラムニスト兼バーマンとして活躍中。 『甘い生活』『乗り移り人生相談』『知る悲しみ』(いずれも講談社)、『バーカウンターは人生の勉強机である』『蘇生版 水の上を歩く? 酒場でジョーク十番勝負』(CCCメディアハウス)、『お洒落極道』(小学館)など著書多数。
ロバート・ストックウェル(通称ボブ)
MHDシングルモルト アンバサダー/ウイスキー文化研究所認定ウィスキーエキスパート。約10年間にわたりディアジオ社、グレンモーレンジィ社、他社にて、醸造から蒸留、熟成、比較テイスティングなど、シングルモルトの製法の全てを取得したスペシャリスト。4ヵ所のモルトウイスキー蒸留所で働いた経験を活かし、日本全国でシングルモルトの魅力を面白く、分かりやすく解説するセミナーを実施して活躍しています。