巨大ウイルスが生物進化に深く関わっていた!? 研究最前線レポート

生命観がガラリと変わるかもしれない
武村 政春 プロフィール

深まる謎

本書でいわんとしていることの中で、最も重要な主張は二つある。

一つは、生物の細胞は、ウイルス(作中では「ヴァイロセル」)にとって増殖のための「土台」にすぎないということであり、いま一つは、真核生物の細胞核は、ウイルス(特に巨大ウイルスの祖先を想定して)の増殖のための「ウイルス工場」が進化したものだ、ということである。

前者は、あくまでも「目線」の問題であって、ウイルス(ヴァイロセル)の目線に立てばそのように見えるが、細胞の目線に立てばまた違った現実が見える。

しかし後者は、続々と積み上げられつつある巨大ウイルスに関するいくつかの研究が、そうであったことを示唆するデータを出し続けている。

はたして『サイエンス』誌に発表された新たな巨大ウイルス「クロスニューウイルス」の存在は、これらの主張にどのような影響を与えるのだろう。

論文の著者たちがいうように、クロスニューウイルスがもつ19種類ものアミノアシルtRNA合成酵素遺伝子は、その祖先がかつては独立した細胞であって、現存する三つのドメイン(バクテリア、アーキア、真核生物)に加え、「第4のドメイン」を形成していた可能性を示唆しているのかもしれない。

(ドメインとは「超界」を意味し、生物の世界を最も大きく三つに分類する分類群である。第4のドメインについては、前著『巨大ウイルスと第4のドメイン』〈講談社ブルーバックス〉を参照されたい。)

してみると、クロスニューウイルスが、タンパク質を合成する「翻訳システム」に関する多くの翻訳関連遺伝子をもっているということは、彼らは比較的最近、生物から巨大ウイルスへと進化したということなのだろうか。

論文の著者により構築されたアミノアシルtRNA合成酵素遺伝子の分子系統樹は、クロスニューウイルスの“根”が、真核生物の中の深いところにあることを示唆している。

ということは、比較的最近とはいっても、それは約19億年前に真核生物が誕生した直後か、または真核生物の長い進化の中でも比較的初期の段階だったのか。

そして、そもそもクロスニューウイルスの祖先は「真核生物だった」のか、それともやはり第4のドメインに分類すべき、すでにこの世に存在しない生物だったのか——。

考えれば考えるほど疑問は尽きず、最新刊を書き上げたばかりだというのに、さらなる謎の探究にうずうずしている自分がいる。

その成果はぜひ次作を待っていただくとして、まずは本書で、「真核生物の誕生・進化」という生命史上の一大イベントに巨大ウイルスがどう関わったのか、そのおどろきの物語をぜひ楽しんでいただきたい。

読後に、みなさんの生命観ががらりと変化していたら、私の試みは大成功である。

進化とは何か? ウイルスはそれにどう関わったか? 「常識が覆る快感」を味わう、極上の生命科学ミステリー