「正社員」が危ない!高拘束、賃下げ、使い捨て…安心はどこへ?

ザマアミロと言っている場合ではない
竹信 三恵子 プロフィール

こうした正社員の変質が指摘されたのは、若者自身の手で労働問題に取り組むNPO法人「POSSE」が2007年と2008年に街頭で約500人に行った聞き取り調査からだ。

この調査から、正社員の特徴と考えられてきた定期昇給もボーナスもなく、ときには、健康保険や雇用保険にさえ入っていない「正社員」が相当数いることが判明した。POSSEはこれを、従来型の「中心的正社員」に対し「周辺的正社員」と呼んだ。

このような正社員の分解は、その後の第二次安倍政権下で、さらに意図的な政策へと変化し始める。

アベノミクスの推進へ向けて設けられた日本経済再生本部の下部組織、産業競争力会議や、規制改革会議が打ち出した「限定正社員(ジョブ型正社員)」などの「多様な正社員」路線がそれだ。

たとえば、転勤がない「地域限定正社員」は、地域内での仕事がなくなったら解雇できるとした。

また、残業がない「勤務時間限定正社員」や、業務内容がある程度決まっている「職務限定正社員」については、会社の拘束が少ない分だけ賃下げするなど、従来の正社員より労働条件が引き下げられた。

地域限定なら解雇できるという部分は、後の有識者懇談会で疑問符がつき、いったんは押し返されている。

だが、介護などで残業ができなければ「勤務時間限定正社員」として賃下げする企業も相次いで登場するなど、家庭との両立を前提としない正社員像が、一段と制度化されつつある。

 

正社員の都合のいい「定義」

実は、正社員は1980年代半ばまで、転勤や残業を引き受けなくても、業務内容が限定されていても、賃下げの対象になるとは限らなかった。社員のほとんどが正社員だったので、その中にいろいろいる、といった程度のことだったのだ。

ところが、1985年の男女雇用機会均等法制定を機に、従来の女性の低賃金を合理化するため、「転勤ができない社員は一般職」として低賃金コースが設けられ、これをきっかけに、「普通の正社員=転勤や残業がある高拘束社員」という定義が横行し始めた。

こうして、1980年代以降、日本では、「正社員」を、長時間労働や転勤といった企業の高拘束を引き受け、言われた仕事はなんでもこなす「ジェネラリスト」、つまり、「無限定社員」と定義する動きが強まり、そうした働き手だけに安定した無期雇用と生活できる賃金が保障されるようになった。

だが、このような無限定な働き方を受け入れなければ不安定・低賃金な非正規雇用を余儀なくされるとなれば、女性の活躍や子育ては難しくなり、過労死も続発する。

そうした批判に、高拘束を引き受けなくても安定雇用と生活賃金は確保できる「ワークライフバランス」のある働き方をつくろうと、目指されたのが本来の「限定正社員」だった。

アベノミクス下ではそれが、解雇しやすく賃金も安い「周辺的正社員」へと転用されることになる。

正社員追い出しビジネス

「解雇しやすい社員づくり」への動きは、このほかにも相次いでいる。第二次安倍政権下では国家戦略特区が導入されたが、ここでも特区内で解雇規制を緩和する案が提案された。

これが世論の批判で不調に終わると、雇用を守った企業に支給される雇用調整助成金を減らし、他の企業への移動を促す労働移動支援助成金を増やすという転換が始まる。