我が子を「居所不明児童」にした鬼畜母の所業

止まらない「負の連鎖」
石井 光太 プロフィール

言葉を覚えることができない

知恵は母親となったものの、コミュニケーションをとることができない性格は変わらなかった。育児の方法を人に教えてもらったり、ママ友をつくったりすることができずに、孤立する。

また、配管工の夫も父親としての自覚がまったくなく、気に入らないことがあれば知恵に暴力をふるい、浮気までした。まさに自分の父親と同じような人間と結婚してしまったのだ。

産後わずか1年で、知恵は離婚。長女を抱きかかえ、収入もないまま、自分を虐待した父親の暮らす実家にもどった。

実家で待っていたのは、父親の知恵に対する暴力や金銭の搾取だった。知恵は水商売をさせられ、その収入の一部を「生活費」の名目で奪われることになる。

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知恵は長女を2階の自室に住まわせ、ひたすら夜に出て行っては水商売に励むことになる。そんな彼女は長女とどうやってコミュニケーションをとればいいかわからず、完全に放置していた。保育園や幼稚園に行かせることもなく、長女を部屋に閉じ込め、洗濯も歯磨きもほとんどさせず、食事はすべてコンビニの弁当やパン。

知恵は言う。

「お父さんが怖かった。だから、娘が騒いだら怒られると思った。それで閉じ込めて、(父親と長女を)会わせないようにしていた」

だが、父親だけの問題ではない。知恵はまったく話しかけようともしなかったため、長女は言葉を覚えることができず、いつまで経ってもしゃべることができなかった。

たまの外出は、知恵の唯一の趣味である、韓流歌手の追っかけにつれていくことだった。知恵に手を引かれ、夜の街を連れ回される長女は、汚れきっていて異様な様相だったにちがいない。

この間、知恵は自治体が行っている乳幼児の定期検診には行かず、自治体の職員が確認のため家庭訪問をしても、一切応じなかった。知恵は定期検診の必要性すらわからず、「怖い人が来た」としか思っていなかったのである。

こうして長女は、居所不明児童となった。

 

全ての歯が虫歯になり黒く欠けていた

長女の存在が確認されたのは、知恵が2度目の妊娠をしたためだ。水商売をしている中で、客の子供を孕んだのである。

客は知恵を都合よく利用していただけなのだろう、妊娠を知った途端に行方をくらました。知恵は、妊娠という現実に1人で向き合わなければならなくなった。

知恵には明確な解決策が思いつかなかった。父親に打ち明ければ、殴られて堕ろせといわれるだろう。でも、堕ろすためのお金なんてない。そうこうしているうちにお腹はどんどん大きくなっていく。

ある日、知恵がインターネットで見つけたのが、特別養子縁組の支援をしている団体「Babyぽけっと」だった。知恵はBabyぽけっとの寮に入って出産をすることを決意し、ひとまず長女を別れた元夫の両親に預けることにした。

義理の両親は、それまで孫がどうなっているのかわからなかった。だが、知恵がつれてきた孫が、あまりに汚れきり、話すこともろくにできないことを知り驚愕した。一度も歯を磨いたことがなかったことから、ほぼすべての歯が虫歯になって黒くかけていたというから当然だろう。

やがて、義理の両親は自治体からの連絡によって、孫が居所不明時になっていることを知った。自治体は長女を発見後、すぐにBabyぽけっとの寮に知恵がいることを知り、事情聴取のため訪ねることにしたのである。