ハリルホジッチ監督が乗り越えてきたつらい過去を思う

フットボールと平和を愛して
二宮 寿朗

指揮官が信じるフットボールの力

彼は日本代表監督就任から半年後、オフを利用して妻と2人で広島の平和記念公園を訪れている。

「私にとってはどうしても行っておかなければならない場所でした。日本の戦争とユーゴスラビアの戦争を一概に比較することはできません。しかし戦争を経験した1人として日本が受けた苦しみ、悲しみ、痛みを知っておきたかった。そして唯一の被爆国である日本がいかにして復興を遂げたのかを自分の肌で感じておきたかったのです」

日本の歴史を知り、実際に足を運ぶことで少しでも思いを共有しようとする。彼の人間性がよく表れているエピソードである。

昨年6月にフランスで開催された欧州選手権(EURO)を視察した際、フットボールの可能性を、彼はあらためて感じ取ったという。

2015年11月、パリで同時多発テロ事件が起こり、多くの犠牲者が出た。開催が不安視されるなか、大会は無事成功に終わった。

「視察して感じたのは、フットボールの力でした。味方も敵も関係なく、試合を楽しんで熱狂できる。そこに政治も宗教も関係ない。あるのはフットボールだけです。

いろんな国、いろんな場所から集まって1つになる。文化をつなげ、人々をつなげる。私はあらためてサッカーに携わってきて良かったなと感じました。この大会はポルトガルが優勝しましたが、真の勝者はフットボールだったように思いました」

彼はそう言って、柔らかな笑みをこぼした。

ワールドカップは来夏、ロシアで開催される。

アジア最終予選グループBの首位に立つ日本代表が予選を突破できれば、6大会連続の出場となる。

ハリルホジッチが語るように、フットボールには政治も宗教も関係なく、文化をつなげ、人々をつなげる魅力がある。ワールドカップに出場して勝利を目指していくとともに、彼は「フットボールの力」を日本に届けたいときっと願っている。

ハリルホジッチは熊本の子供たちに、県のマスコットキャラクター「くまモン」のピンバッジをワールドカップに連れていくと約束したそうだ。

「日本社会においても、フットボールは非常に大きな存在。勇気や希望を届けられるスポーツだと私は思っています」

ハリルホジッチは平和を愛し、フットボールを愛す。そして日本を愛する人である。