「いい子」はこうしてつくられる
ちょっと極端な例だったかもしれませんが、このような脅しは、子どもを「素直」で「いい子」にさせるでしょう。
母親が何を期待しているかを瞬間的に察知して、そのとおりの言動をしていれば母親は家出をしないだろうと思うからです。そのかわり、いつもびくびくして、母親の表情をうかがうことになるでしょう。
多くのおとなたちは、マユミさんも口走ったように、極端なことを言って子どもを怯えさせ、言うことをきかせることがあります。
「ほらほら、おまわりさんが来ちゃうよ」
「そんなに騒いじゃ、となりのおばさんから叱られるよ」
勝手に誰かのせいにして、そのひとの力で怯えさせ従わせるといういちばん卑怯なやり方です。
もっともよく登場するのがおまわりさんなのは、職業柄、仕方がないとしても、近所のこわそうなおじさんや電車で隣に座った女性のせいにすることは、その人たちにとってもえらい迷惑でしょう。
先日も新幹線の待合室で孫(たぶん)に向かって延々とお説教している女性がいました。
「いい、そんな嘘をついたら、おまわりさんにいいつけちゃうからね」「みんなから仲間はずれにされるよ」と大声でしゃべっているので、思わずその女性の方向を見てしまいました。すると、女性はすかさずこう言ったのです。
「ほらね、こわいおばさんからにらまれるよ」と。
ひとこと「嘘をつくのはよくありません」と言えばいいのに、どうして勝手に他人を使って脅すのでしょう。正面に立たないで周囲をうまく利用するというずるさは、他人の目を気にする態度につながり、ひいては空気を読む同調圧力になると思います。
ただただ黙ってお説教を聞いている孫にも、それが伝わってしまうのではないかと心配になりました。
マユミさんの場合は、他人のせいにしているわけではありませんが、「ママは~するよ」という残酷な脅しです。
そんなこと言うと捨ててしまうよ、ママは出ていくわよ、という言葉は驚くほど頻繁に使われています。嘘に過ぎない脅しは、子どもが中学生になる頃には見破られるようになりますが、だからといって許されるわけではないでしょう。
中には、自分の体の手術の跡を入浴のたびに見せて、「ママはもうすぐ死んでしまうわ」と脅す母親もいます。
子どもにとって、母親はすべての中心であり、世界そのものであり、安心感の源なのです。母親が死んでしまうかもしれないということは、何よりも恐ろしいことなのであり、だからそれを防ぐためには、それこそ全身全霊で何でも言うことをきくようになるのです。
「素直でいい子」は、子どもの性格ではなく、親からの脅しや恐怖への対応としてつくられると思います。カウンセラーとして、ときにいい子が危ないと思うのは、このような理由からなのです。
(→第3回「子どもを伸ばす"ほめ方"/ダメにする"ほめ方"」はこちら)